Magazine


一覧へ

INTERVIEW No.48


ひとりひとりの EPISODE を花で表現

橋本藍 / Ai Hashimoto

2006年、お母様とはじめられた花屋。そこではフラワーアレンジメント教室を中心に販売に生け込みと、お花・植物に関わること、できること全てを提供していた。子育てをしながらお店に立ち、そこで生まれた地域との関わり・子育てで得た繋がりをもっともっと活かすためにカフェを併設したお店を4軒となりに2018年リニューアルオープン。ブルースタジオで店舗デザインをお手伝いさせていただいた、On Flowers 東中野を営んでいる橋本藍さんにお話しを伺いました。

ブルースタジオ(以下、BS) 橋本 藍(以下、橋本)

花との距離

BS 今の職に就くきっかけを教えてください。
橋本 phoiw48-2_01.jpg お花=母が好きなモノ。小さい頃から花や言葉が身近にある環境で育ちました。それは祖父母が歌人であり。日本の四季を詠む言葉があって。言葉に対してひとつひとつに興味を持ち、言葉を好きになるきっかけを持ったんです。街路樹を散歩していたらそれこそ季節の花が咲いているのをみて、自然に言葉から季節の花を覚えるようになりました。
大学生の頃、母が独立し花屋 On Flowers をオープン。母が独立を決意する前、本当にできるのかどうか不安で反対していたんですが、タイミングよく花屋の居ぬき物件をご紹介いただいて譲ってもらいました。 iw48-2_02.jpg ただその時に色々とやることが山積みで。床の色を変えたり、ピンク色の壁を白に変えたり、可愛い店舗からシャープな店舗にDYI。またブリティッシュグリーンが母の中でのイメージカラーだったので、お店の顔である入口扉はそのカラーにしました。私がDYIを一緒に手伝い愛着が沸いて、気づいたらその場に転がりこんでいたんです。なので " 花屋になりたかった " ではなく " 花屋が目の前にあったから " 今の私があります。
そんな中、2017年12月に母より On Flowers を譲り受けたんですが、今の店舗の広さだと空間として手狭で私が想い描いていたイベント空間やカフェを併設した花屋ができないと悩んでいました。 iw48-2_03.jpg たまたま4軒先の物件が空いているのを見つけ、1日だけ貸してください!と交渉。広くなったスケルトンの空間を利用しクリスマスでマーケットを開催した んです。そのイベントが終わった時に、ここだったら私がやりたいことができるんじゃないかって強く想うようになりました。そのイメージを色んな人に相談。スケルトンからの店舗で工事も設備もお金がかかるんじゃないかっていう話をされ、ただただ花とカフェというフワッと考えていた事に対して真剣に向き合うようにスイッチが入り、カフェを併設した花屋をリニューアルすることをオープン決意しました。

iw48-2_04.jpg

ここで生まれたモノとコト

BS 花とカフェ。カフェもあることで何か生まれたことはありますか。
橋本 iw48-2_05.jpg 最初の頃はこれまで知り合ったお客様が多かったのですが、少しずつカフェとしても地域の方々や SNS を通じて On Flowers を目指してきてくれるお客さまが増えました 。カフェのサンドウィッチはありがたいことに毎日sold-out 。またここで私たちと一緒に働きたい!っという仲間も増えました。カフェをはじめた時は超大変で(笑)飲食未経験からのスタートだったので。
でも自分の拘りと譲れないモノもあって、とにかく手がかかる仕事、それを一緒に働く仲間に共感してもらうのにも大変でした。でもそれってお客様に飽きられないように、 感動・喜んでもらえるようにすることが目的だったんで、iw48-2_07.jpg色んな人にも相談をして、日々勉強でした。 一年目はもう力の限りを尽くしていた年で目の前の事に対応する日々であり、今となってはどんな一年間だったか正直覚えていません(笑)。でもスタートする時に色んな人に助けてもらったこと、イツキコーヒーロースタリーさん だったり、食のアトリエ・スパロウさん 。自分たちでできることが限られていたので、とても感謝と尊敬している人に助けていただいたこと、とても感謝しています。
店内メニューをサンドウィッチに拘ったのは、自分が片手で美味しいモノを食べたいから。花屋って車で移動することが本当に多くて、それがきかっけです。またサンドウィッチって奥が深くて、iw48-2_21.jpgビジュアルひとつとっても重ねた順番でどんなに彩りよくカッコよくなるのか、二週間に一回メニューが変わるので、季節の食材を取り入れたり、また自分たちが賄いでも食べているので毎日食べたいって思えるサンドウィッチを目指しています。

美しいエピソードの数々

BS 橋本さんの Instagram は吸い込まれるような感覚でいつも読んでいます。どんな想いで綴っているのでしょうか。
橋本 どんな職業でもそうだと思うんですけど、花屋ってとっておきのエピソードが山のようにあるんです。その花がどういう想いで私たちにご依頼くださるのか。プレゼントする相手への想いを伺って素敵―!と思うこと、共感できることが本当に多くて。その私の感じた思いや日々のホッコリとしたメッセージを伝えたい・聞いてほしいと思って発信をしてい ます。花屋が話すエピソードって私のことではなくその花の先にあるモノなんですよね。誰の目線でどういう風な表現をすると、この素敵なエピソードを相手に伝わるのかなって考えています。だから私の Instagram ってかなりの文字数なんですよね。書きたいこと・伝えたいことをワーって打って、整理。投稿したあとはスッキリしています。昔はブログを書いていたんですが、その時って誰に向かって書いているんだろうって思っていた時期がありました。どう表現していいのかわからなくて、その時はとにかく発信するということを考えて書いていたことがあって。でも今は自分を前に出すことではなく、お客様のエ ピソード紹介、花屋として書き手として発信をしています。そんな長―い文章を読んでくださる方が多く、常連のお客様でなくても、お店にはじめてこられる方との距離を近く感じられるんです。「いつも Instagram で読んでいますー!会いたかったですー!」って、言われるとすごく嬉しくて、見てくれている人がいるんだなー、読んでくださる方がいるんだなー、そして楽しみにしてくれる人がたくさんいるんだなーって。感情的な投稿はストーリーズだけにしています(笑)。私生活のことも赤裸々に書いているんで、お客様がお子さん連れだと子供の話題で店内が盛り上がることもあります。SNS がない時代は日記帳 にひたすら小さい文字で書いていました。書くことで頭の中でグルグルしていることが整理されるんですよね。

iw48-2_08.jpg

家族の寝顔が一日のはじまり

BS Instagram を読んでいて、気になったんですが橋本さんはどんな一日を過ごしているのでしょうか。
橋本 iw48-2_24.jpg 朝は3時に起きるんです。子ども達のことは旦那さんにお願いして、3時半頃一人で朝の市場を目指して出かけます。市場に着くと仲卸通りと呼ばれる仲卸さんがお花を並べている通りをいい花を求めて何往復もするのが日課。その中でお世話になっている仲卸さんからの買い付けをして積み込みをして います。はじめた頃は大学生だったんで、わからないことはいろんな人に聞いて教えてもらうことが多かったんです。母と一緒にしている時は、母はレッスン用の買い付け担当。ギフトや店頭売りのお花や雑貨を私が担当していました。お世話になっている仲卸さんは,市場で全く知り合いのいなかった私が初めて市場で仲良くなった同い年の頼れる人で。彼が担当に変わったことで花の仕入れがグッとしやすくなりました。 かれこれ10年以上のお付き合いがあっていい花を頼むと間違いものを揃えてくれるので、絶大な信頼を置いています。また市場って毎回同じ人が同じ時間に買い付けにくるんですよね。なので挨拶からはじまって少し会話をすることが増え、先輩のお花屋さんにも教えてもらうことがたくさんありました。最近新しい車になったのですが、いいね!と話しかけてもらったり、iw48-2_23.jpg花市場の人たちは全体的に和やかでとても仲良しです。そして買い付け後お店に戻ってくるのが7時頃、水揚げが終わるのが10時頃です。愛車のハイエースいっぱいに花を連れて帰ってくるので、一人でだととてもじゃない量なのですが、9時半頃に他のスタッフも出勤してくるので11時までのオープン作業をみんなでしています。 オープンまでに市場で買ってきたお花や本日のサンドウィッチを紹介するために撮影と投稿。オープン後はホールをしながらその日のギフトをつくって、合間合間にちょこちょこっとメール対応したりDM対応したり。ヤマトさんの集荷が17時なのでそれに合わせて閉店です。
また月に2回程店内でレッスンをしていて、ありがたいことに毎回たくさんの方が参加してくださっています。

想像もしなかった出来事

BS Instagram の投稿で仲卸さんのお話をされていることがありました。パンデミックによって変わったことはありますか。
橋本 コロナという感染病。日本でも緊急事態宣言がいつ発令されるのかわからない2020年3月。世界中のロックダウンした都市の状況を耳にすることで、世の中がどうなっていくのかが想像もつかないことが続きました。経営者として従業員をどう守らなくてはいけないのか。すごい不安だった時に、不要不急のモノではない花。春は花業界の繁忙期、市場にお花が溢れ返っており、SNS では行き場のない花が捨てられてしまう画像が多々あがり、困っている花農家さんの声も。市場では可哀相な値段でたたき売られている花が並んでいましたし、そもそもお花屋さんが歩いていなくて。駐車場もガラガラでいつもは活気のある仲卸通りが暗い光景でした。休業していくお花屋も多く、私が手に抱えられるぐらいは何かできないかと思い「花のチカラ」という配送をスタートしました。ブーケを束ねて「このお花達を受け取ってもらえませんか?」と発信をしたところ、すごい沢山の人たちから届けてくださいってメッセージをいただいたんです。お家にいて外に出られず、お花が届くとすごい嬉しいですと喜んでもらえました。今だからこそ、こんな時だからこそ、花が必要なんだと花の力を確信しました。4月からはじめた「花のチカラ」は、ありがたいことにたくさんの反響をいただき第6弾くらいまでしました。配送メインで届けて いたお花でしたが、近所にお住まいの方より「受け取りに伺ってもいいですか?」と連絡をいただき、それがきっかけで週1回花屋だけをオープンすることに。するとサンドウィッチはないの?っとなり、オープンデーでもサンドウィッチを TAKE-OUT で販売するようにしました。するとご近所の方より楽しみにできることがこんなに嬉しいと気づきました。と、声やお手紙をもらいました。私たちがやっていたことは間違っていなかったと思える瞬間でした。2020年3月から4月って働くことってなんだとう。自分の存在価値ってなんだろうって考 えました。「花のチカラ」を企画してお客様や、みなさんに幸せを届けられたという気持ちももちろんとっても嬉しかったのですが、花屋の仕事はみなさんにとって必要な存在だったんだと肯定してもらえたことが本当にありがたかったです。

iw48-2_11.jpg

いま、想うこと

BS コロナ前を比べ暮らしが変わったことが多々ありますが、橋本さんはいかがでしょうか。
橋本 緊急事態宣言で自粛が続き、遠くに行くことを控えるようになった世の中。暮らしている地域で過ごす方が増えたことで、お店に来られる人もご近所にお住まいの方が増えました。遠くに行けない分、お家の中を整えたりと。またリモートワークしているお客様がサンドウィッチを買いに来てくれるんですが、お店にきて泣いちゃうこともあるんですよね。「今週はじめて人と喋りました」と。一人暮らししていると、リモートワークで働く人たちって画面越しに話をすることが当然となっていて、リアルで話せないことが心を弱くしている。淋しい、辛いって耳にします。東中野でお店をしていて、本当に常連さんの多い街だって改めて思います。また東中野って地域のおばあちゃん達のお話では風の抜けるいい街なのよって教えてくれたんです。氷川神社のあたりはお屋敷街でとっても落ち着いたいい街なんですよね。下町の雰囲気を残す場所もあって、ディープなお店もあったりで。コロナ禍、今も大変であるけども、大事なモノを見つめなおすきかっけを持つことができたんだなと思います。 On Flowers は東中野地域のみなさんの場所であり、私たちの場所でもあると考えています。以前までは私の花、私の気持ちというのを全面に出してしまっていたのですがリニューアルオープンして、空間が3倍に広くなりやることも増えて、またお客様も増えて一人ではできないことが山のようにあって。今はチームでやっていくことを覚えて On Flowers っていうのは、場所でありチームであると感じています。私たちが楽しく営業していることで、ここに来られるお客様が愉しいと思えることが私の幸せであります。
BS 耳を傾けたくなる橋本さんが手がける数々の花とメッセージ。ブルースタジオは、これまでもこれからも On Flowers を応援します!

2021年8月4日 東京都中野区東中野『 On Flowers 』にて
インタビュアー・撮影:平尾 美奈 (blue studio) 写真提供:On Flowers

橋本藍

Ai Hashimoto

1984年東京都出身。3人の子を持つ母。
幼少の頃より常に花に囲まれた生活を過ごし、
歌人であったご祖母の影響もありダイナミックでかつエレガントな花束やアレンジメント
を創りだす。
また店内の植物や雑貨ひとつひとつを我が子のように愛を込めて演出・販売するデザイナー。


http://onflowers.jp/higashi-nakano/
https://www.instagram.com/onflowers1/





Rent / Sale

Magazine

Portfolio