Magazine


一覧へ

INTERVIEW No.43


民藝の精神が
宿った茶屋

大西 拓見 / Takumi Onishi

「お茶を通じて民藝のよさを知ってもらいたい」という店主の想いから、2012年11月、古書店や老舗喫茶店が数多く点在する街、東京・神保町にオープンした茶屋兼ギャラリー「まれびと」。
店主・大西拓見さんにお話を伺いました。
大西さんが「お茶」に興味を持ったきっかけは、高校時代を過ごしたアイルランドの紅茶文化から。帰国後は日本茶に関心を向け、実際に茶屋で働く経験等を積み、自身のお店を開業。店舗デザインはブルースタジオが手がけました。

ブルースタジオ(以下、BS) 大西拓見(以下、大西)

お店を出すきっかけ

BS お店を出そうというのはいつから考えていらっしゃったんですか。
大西 iw44_06.jpg そうですね...。私は両親が飲食店を経営しているので、幼い頃から調理場を遊び場にしていました。そういう環境で育ったので、自分のお店を出すということは、いつからともなく、ごく自然な流れだったような気がします。
BS 大西さんは「まれびと」をオープンする前、どのようなお仕事に就いていたんですか。
大西 大学院を修了してからは実家の飲食店で働いていました。もうひとつ、学生時代からはじめたカメラマンの仕事も、このお店を始めるまで続けていました。カメラマンの仕事というのは、情報雑誌の撮影で、主に飲食店を取材するというものでした。小さな個人経営のお店から大型チェーン店まで2000軒以上は取材したと思います。
BS そのような生活がある一方で、お茶や料理はいつから始められたんですか。
大西 iw44_05.jpg お料理に関しては生まれた時からということになると思いますが、お茶について本格的に学び始めたのは、お店を出すと決断した時からです。まずは色々なお茶屋さんをまわるところから始めました。そのなかで一番美味しいと思ったお茶屋さんに通い続けたんです。新茶の時期にはそのお茶屋さんで働かせて頂いたりもしました。そこでお茶の審査や鑑定などを学びました。今でも、毎週お店が始まる前に伺ってお茶について教えて頂いています。
BS とてもお忙しくされていたんですね。お茶の世界って、身近なようでよく分からないんですが、具体的にはどのような知識が必要になるんですか。
大西 iw44_08.jpg 一杯のお茶を注意深く観察すると、品種や産地あるいは肥培管理や加工方法など、様々な事が分かります。審査や鑑定では、滋味(味)水色(色)香気(香)などを正確に判定できる力が必要ですが、それを表現する言葉も重要なんです。僕が拝見して「土壌がいいですね」と言うと、お茶屋さんの先生に「これは風土がいいって言うんだ」と注意されたこともありました(笑)。経験を積んでそれらを知れば、そのお茶に合った淹れ方ができるようになります。ただ、それだけでは不十分なんです。先生がよくおっしゃるのは「飲む人が美味しいと思えるお茶を淹れる」という事です。これが難しい。季節や体調、朝昼晩によっても美味しいものは変わっていきます。もちろん知識は重要ですが、お茶を美味しく飲んで頂きたいという思いが一番大切ではないでしょうか。
BS そんな沢山種類がある中で、お店で出しているお茶はどのようにして選ばれたんですか。
大西 お料理とお茶の相性を第一に考えて選んでいます。お料理は季節によって変えていくので、お茶も一緒に変えていきます。春の山菜の時期には瑞々しいお茶を合わせますし、秋のきのこの時期には香ばしいお茶をお出ししています。お料理をタッパーに入れてお茶屋さんに持ち込んで選んだり、食材に合わせてお茶を合組(ブレンド)する事もあります。
BS 何故"お茶"だったんですか。
大西 iw44_02.jpg うーん。今から考えると最初にお茶に興味を持ち始めたのは、高校生の頃だったと思います。私は高校3年間をアイルランドで過ごしたのですが、アイルランドの人たちって本当によく紅茶を飲むんです。日常のとりとめのないおしゃべりをする時も、哲学や芸術について議論を交わす時も、いつも傍らには紅茶がありました。少し大げさな言い方かもしれませんが、一杯の紅茶から歴史や文化が生まれるような気がしたんです。日本に帰国してからは、日本茶に興味を持つようになりました。日本に居ると日本茶は身近過ぎてあまり意識する事はないと思いますが、私の場合、一度海外に出ているので、とても新鮮に映りました。まず、どこへ行っても日本茶は無料で飲めるという事が驚きでした。一方で、単なる喫茶ではない茶道のような総合芸術もあって、こういったお茶の奥深さを学び、伝えていきたいと強く思うようになりました。
BS お茶の歴史と文化、国によって様々ですね。
大西 紅茶も日本茶もカメリアシネンシスという同じ植物から出来ていますが、お茶に対する考え方は大分違うと思います。例えば、紅茶ではミルクや砂糖を加えたり、フレーバーを足す事がよくあります。日本茶の場合は「何も足さない、何も引かない」という事が原則なので、そういった事はまずしません。ただ、何もしないかというとそうではなくて、火入れ(焙煎)や合組(ブレンド)を1年を通して微妙に変えていくんです。四季が移り変わっていくなかで、いつ飲んでも美味しいと思って頂くための見えない配慮が日本茶の世界では重要になってきます。

"創る"過程

BS 弊社にご相談を頂いてお店がオープンするまで、印象に残ったことなどありましたか?
大西 iw44_03.jpg みんなで創り上げていったという印象がとても強く残っています。ブルースタジオさんには「物語」というキーワードがありますよね。私も「物件」ではなく「物語」を創るという意識を持って打ち合わせに臨んでいました。まずは、どのようなお料理とお茶を、どのように提供するのか、といった話から始めたと思います。そしてそこに一番時間を掛けました。物語の内容さえ決まれば、舞台は自然と決まっていくもので、具体的な内外装の話は比較的スムーズに進行したと思います。
BS 『まれびと』の内装を決める際には、どのようなことを意識されたのですか。
大西 iw44_04.jpg ブルースタジオさんには現代の茶室を創りたいとお話ししました。4畳半の畳に炉が切ってあれば茶室なのではなく、きっと千利休の時代の茶室は、日常のなかのちょっとした非日常というくらいのものだったと思うんです。そういった意味で今は、茶室の敷居が少し高くなり過ぎているような気もしています。神保町の雑多な通りを抜けて、階段を下りていくと洗練された静かな空間があって、素朴でほっとできるようなお料理やお茶を楽しんでもらいたいということを意識して内装を決めていきました。

オープンを迎えて

BS 実際にお店がオープンをして3ヶ月が経ちましたが、いかがですか。
大西 iw44_01.jpg オープンから3ヶ月が経って思うことは、お店の雰囲気はお客様で決まるという事です。そういった意味で、学生時代に通っていた古書店のオーナーさんが来店して下さったり、忙しい時に手伝って下さる常連さんがいたり、毎日とてもいい出会いに恵まれています。このお店でプロポーズしたお客様もいらっしゃいました。
BS 今日お話を伺いながら、ふるまわれているお料理を頂きましたが、本当にとても美味しいですね。
大西 iw44_07.jpg ありがとうございます。どんな言葉よりも「美味しい」と言って頂く事が一番うれしいです。ただ、私ひとりの力では一皿のお料理を完成させる事はできません。私のお料理を支えているのは、まず何よりも山菜やきのこ、鮮魚や精肉などの、食材を提供して下さる方々です。それからお料理に合わせたお茶を提供して下さるお茶屋の社長さんの存在も大きいです。ひとりでお店をやっていると不安になる事がよくあるんです。そんな時に「君がやっていることは間違っていない」と言ってもらえたので不安を拭い去ることが出来ました。最後にもうひとつ私自身が大切にしている言葉があります。このお店をオープンしたその日に父から短い手紙が届きました。そこには「料理は作品です。作り続ける芯の強さを持った者だけが生き残れる世界です。」とありました。とても難しい事ではありますが、これからもこの父の言葉を忘れず、より美味しいお料理を追及していきたいと思います。

2013年2月 『まれびと Tea house & Gallery』にて
インタビュアー:申 梨恵  撮影:薬師寺 将、平尾 美奈(すべて、blue studio)

大西 拓見

Takumi Onishi

「まれびと Tea house & Gallery」店主
2012年11月 東京千代田区神保町にOPEN
住所: 東京都千代田区神田神保町1-13-B1
営業時間: 【月-金】12:00〜22:00(L・O) 【土・祝】場合によりお休み
定休日: 日曜日






Rent / Sale

Magazine

Portfolio