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INTERVIEW No.22


ジャーナリスト」としての切り口

本間美紀 / Miki Honma

003年11月に「リノベーション物件に住もう!」(河出書房新社刊・ブルースタジオ監修)がついに誕生。1年以上に わたるブルースタジオへの密着取材を終え、本書を企画・編集・執筆したのが本間美紀さん。自らの編集者人生駆け出しの頃から今までの「書くこと」にたいす る想いを語っていただきました。

ブルースタジオ(以下BS) 本間美紀(以下MH)

山本夏彦の編集部に入った!

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MH 実は、わたし、住宅とかインテリアに特に興味がなかったんですよ。家は当然「○○ハウス」「○○ホーム」で買うものだと思っていて、建築家やインテリアデザイナーの存在も知らなかったんですよ。
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BS えっ、それ本当?本間さんは大学卒業されて「室内」編集部に入られたわけですけれど、建築との接点になったのはそれが初めてというわけですか?
MH ええ。>
BS ...ちょっと、その前に。どんな学生だったか教えて下さい。
MH 早稲田大学第一文学部の文芸学科にいたんですが、ここがですね、カリキュラム的な拘束が緩くて、他の学科と違って何をやっても良いという作家になりたい人、シナリオライター、劇作家、女優になりたい人、みんな来ちゃう様なところなんです。拘束がない分、進みたい方向性を自分ではっきり組み立ててやっ ていかないと意味がなくなっちゃうんですね。私は、その頃から、「文章を書く」ということを積極的にやってたんです。
BS 書くことが好きだった?
MH 好きでしたね。卒業論文も小説を書いたんですよ。
BS 卒論が小説でいいんですか?
MH 小説でも脚本でもいいんですよ。それで...実は...全学部の学内の優秀な卒論に与えられる「賞」、取っちゃったんですよ。確かそのとき、他にスキーの萩原選手なんかも受賞されて。冷や汗ものです。
BS 一等賞!?
MH そう。でもその時に書いていた文章というのが実は「独りよがりなものだった」ということにその次の段階になって気付いたんですよ。「プロとしてみんなに分かりやすい文章を書くということは違うことなんだ」ってことに。
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本間さんの書庫より「室内」のバックナンバー
BS お仕事をはじめられてからということですよね。それはやっぱり上司から教えられたことなんですか。
MH その上司が私の人生の中でポイントなんですよ...コラムニストの山本夏彦。就職課で彼の主宰する雑誌の求人を見つけたんです。文芸春秋の彼のコラムなんかは、私は小さい頃から読んでましたらから、「あ、彼のところで働けるんだ!」って。そもそもインテリアにも建築にも興味のなかった私が、その雑誌、 「室内」の編集部に入ったきっかけは、そこだったんですね。
BS それから、山本さんとの仕事が始まったわけですね。
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MH そう。小さい会社でしたから、山本と一緒にいる時間はとても長かったですね。しかし面白いのは、山本自身もインテリアとか建築とか興味があるわけではないんです。c
BS ???興味がない分野の本を作っちゃうんですか?
MH 「ジャーナリストの才能っていうのは、その分野が好きかどうかとは関係ないんだ」っていうことを、そこで教わったんですよ。この世界にいる人がどういう情報を求めているか、、、そのことを俯瞰視して見ることさえ出来れば、編集の仕事は出来るんですよ。ある程度好きなことはいいんですけれど、入り込み過ぎるとそれはジャーナリストとしてはあまり良くないですよね。例えば、新入社員は雑誌の後ろの方にある「新発売告知板」っていう新商品を紹介するページ の小さな小さな記事を書くところから仕事が始まるんですけれど、これも元となるメーカーのプレスリリースのまま書いていたんではダメで、過去にはどんな商品があって、読者にとって何が新しいのかということを客観的に書かなくてはならないんです。
BS なるほど。それこそが、「もの書き」といわれる人たちの仕事なわけでしょうね。
MH そういうわけで、インテリアとか建築を知らなかった私が、仕事を通してインテリアデザイナーや建築家と呼ばれるような人と会うことが多くなり、興味を持つようになっていったんですよ。例えば、椅子っていうものは、座や背や脚...こういったパーツから出来ているらしい、そういうことを初めて知ったわけですよ。
BS そうか、そうか、そういうところから、誰がカタチを決めていて、誰が材料を持って来て、どこで、誰が加工していて、っていうところに話がいくわけですね。
MH そう!そうなんですよ。コルクの床材の産地まで遡るために、ポルトガルまで行ったりとかね。

私自身の切り口と文体で語りたい!

BS それから独立されたわけですけれども、これは、山本さんからの独り立ちということなんですね。きっと。
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本間さんの書庫より「室内」のバックナンバー
MH 実情はそんなかっこいいものじゃないんですけど(笑)。仕事を通して建築という分野を扱って、それなりに詳しいところまで勉強したんですが、「これ以上深く専門として建築の世界に突っ込んでいくのか?」と言った時に、「違うかな?」っていうのがあったんです。ただ、「住む」っていうことや「暮らし方」と言うところには興味があったので、それをもっと一般の人向けに発信していきたいと言う想いで、一人で始めたんですね。
BS 海外、特にヨーロッパに行かれることも多いようですが、それはフリーになられてからですか?家具とか雑貨だけでなくて、われわれが設計で使うような素材についても、結構マニアックな情報をお持ちだったりしますよね。iw22_06.jpg
MH 「室内」の頃から産地やら工場やら見本市に行ってましたね。ヨーロッパだけでもかなりの回数行きましたよ。情報を集めるんです。デザイナーさんが「インスピレーションもらえるような素材ない?」って私のところ訪ねてこられることもありますよ。そういう情報の見方というか、見るべきところを見ておくと面白いテーマがいっぱいあるんだと言うのは、やっぱり山本から学んだことでしょうか。彼なんかは一日編集部で座っているだけでも、周りで起こったことに 切り口を見つけてそれをコラムにしてしまうんですから、やっぱり凄いですよ。でも、それが出来ないと情報はただの情報として流れていくだけですよね。
BS 情報は切り口ですか!
MH 例えばブルースタジオの本だって、「素敵なインテリア!」として出していくだけだったら、それはいくらでも出来るかもしれないけれど、そうでない独自の切り口を見つけて、どういう人たちにどういうカタチで伝えていくのかを考えていかないと、それは編集者ではないしジャーナリストではないんでしょうね。例えば、私の目の前のこの机にコーヒーカップがありますけれど、今までの女性誌だったら、「無垢のテーブルに似合う白いカップが素敵!」っていう切り口でコップにピントかもしれないし、一方のインテリア誌だったら「イームズの椅子と集成材のテーブル」ということでアクセサリーのカップはぼかして撮っているんでしょうね。でも、実際にはテーブルも椅子もカップも暮らしの中ではつながっている。こういったものを並列に語るということは今まで誰もしなかったんだけれども、私はそれをやりたいんです。
BS フリーになって、仕事のやり方は変わりました?
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MH 雑誌というものは、編集長が語っているものなんですよ。「室内」は山本夏彦が作って、山本が渾身の力で語っていたんだと、外に出た今こそ、はっきりとわかります。他の雑誌でも同じだと思います。編集長は、誰にどんな文体で語るか、その責任を全て負っているんです。だから逆に、「室内」にいた頃には「室内」のやり方で書けばよかったんです。フリーになってからは、媒体に合わせて書くケースももちろんあります。ですが今回のブルースタジオの本のような 場合は、「誰に、どういう言葉で、何を伝えるか」を全部自分でディレクションすることになりますよね。「です。ます。」なのか「だ。」なのか。漢字とひらがなの割合はどのくらいなのか...そしてどんな価値観を軸に、何をどんな表現で伝えていくのか...「本を出版するということはこういうことなんだ」って初めて気付いたのは、それらに思い悩んだときでしたね。
BS いやあ、失礼な言い方かもしれませんけれど、とても興味深い話ですね。本間さん、今後はどのようなお仕事をしていきたいと考えていますか?iw22_08.jpg
MH 月刊誌はさんざんやったし、もう少し保存されるもののほうがいいなと考えています。情報の早さと多さだけではwebにかないませんから、いつまでも手元においておきたいものや、何度も読み返したり、眺めていたいものでなければ、本の生き残る道はないんじゃないでしょうか。だから、今はムックというスタイルには興味がありますね。ブックの良さにマガジンのノウハウを活かせるんですよ。
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本間さんの取材記録より
2003年の「ミラノ・サローネ」見本市風景
BS 良い雑誌の条件というのはなんでしょうか?
MH 変わらない、つまり信頼される、ということじゃないでしょうか。
BS 書く喜びというのはなんでしょうか?
MH ポジティブじゃなくても、ネガティブでもかまわないんですが、私の文章を読んでくれた方から具体的なアクションを起こしてもらえることですね。

どんな事に対しても非常にはっきり、しかも正確に話して下さる本間さん。「ブルースタジオの本は、確実に私の編集者としてのステップアップになりました。後は、読者のみなさんからの反応を聞くのが楽しみ」とのこと。

2003年12月18日 blue studioにて
インタビュアー:泥谷英明(blue studio)
撮影:武井良介

本間美紀

Miki Honma

仙台市出身。
早稲田大学第一文学部卒業後、工作社入社、
インテリアの専門誌「室内」編集部を経てフリーランスエディターに。
建築家の手がけた住宅の取材経験が数百件というだけでなく、
ヨーロッパの家具、インテリア関連の取材も多数。
インテリアを中心としながらも、 食べ物、お花、アート、カルチャーまで
暮らしを(精神的に)豊かにしてくれる他の多くの分野を、
「普通の暮らし」を軸にジャンルミックスしていく取材執筆、編集活動を展開中。





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