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INTERVIEW No.09


「建築家と料理人」

石川彰久 / Akihisa Ishikawa

今回のトピックスは「e*n*y*a」「fushi*ogami」の設計を担当した石川氏にスポットを当てます。

ブルースタジオ(以下BS) 石川彰久(以下AI)

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学生の時につくった作品。
コンクリート製のベット。「BED/SLAB/EROS」

BS まずはじめに建築家になろうと思われた動機を教えて下さい。
AI 「建築家になりたい!」って思ったことはないかもしれませんね。(笑)絵を描いたりモノをつくったり、それが生活になればいいなと。小さい頃から描いたり作ったりっていうのが好きだったから自然と美術やデザインといった方向に足が向いたわけで、欲張りだからいろんなことをしたかったね。で、今は「建築」って領域にいる。本来的な意味での「建築家」になれるかどうかは別として、「建築」を軸にモノを作っていきたいなと思う。職業としては単なる「絵描き」にもあこがれちゃうけど。
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写真も撮っていた・1
BS それでなぜ絵ではなくて建築の世界に?
AI 絵ばかり描いていたころは絵が絵として成立するには、タブローに表出される空間が 大事だと思っていたのね。それは必ずしも透視図法とかそういうことではなくて線や面の重なりによって生まれる「吸い込まれる感じ」というのか。絵画における「空間性」っていうのはなんだろう。どうしたら自分が感じているイメージ通りに 表現できるんだろうと。描きながら「空間」ってなんだろう?って考えるようになって。その答えの近道が「建築」を学ぶことににあるんじゃないかって思ったんだよね。また、当時インスタレーションの美術作品を観る機会があったり、ガウディの存在を知ったりして、実際に「空間」を作りたいとも感じるようになっていましたね。学校に入りたての頃はまだ若造だったから建築も偏った見方しかしていなくて、美術と建築の甘い融合なんてことを考えていて、作る意識としては絵も建築も変わんないや、と。そんな感じだったから1年生の最初の住宅の課題の時には針金のオブジェと抽象的な絵を提出したのね。どうしても自分の中の空間のイメージが建物の図面や模型にならなくて。
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写真も撮っていた・2
BS それで課題は大丈夫だったんですか?
AI いや一発で再提出。その時担当の先生に言われたのが建築は図面で勝負(表現)しなさいと。それでも最初の2年間はそんな感じでデザインとか、芸術とか、モノをつくるって事の中で「建築」ていうものの位置付が自分自身の中でうまくできないままでいて、何とか美術的なものと建築を融合してアウトプットする方法があるんじゃないかって悩んでましたけど。でも3年生の時このままじゃ「建築」もまともにできないって思って割り切って「建築」を勉強しました。
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「白い耳」大学院時代のインスタレーション
「武蔵野美術大学大学院竹山ゼミ+有志チーム/1994」
BS 学校を卒業されてからどういう活動をされたのですか?
AI 大学院をでてから、いきなりフリーとして仕事していました。とはいっても最初は食えないのでバイトをしながらパースの仕事などって感じでしたけど。ボリュームのある仕事は友人などと集まって協力したりして。
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陣場マンション外部改修工事の様子
BS それがeifuku design baseですね。
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陣場マンション外部改修工事の外観
AI 学生時代の友人とスタジオを探していたときに、その友人のつてで井の頭線の永福町にあった休業中のパチンコ屋を間借りできることになって。それがeifuku design base(以下edb)。それぞれ自分の仕事をしつつ大きな仕事の時にはチームをつくって協同で作業をしていました。そのedbのメンバーを中心に有志5人で立ち上げたのがmaterial data bese。「素材」をテーマにしたデータベースサイトなんだけど、単なる情報の寄せ集めではなくてさまざまな事例や企画の中から「素材」を紹介していくサイトを目指しています。残念ながら諸事情で最近は開店休業状態になっているので、今一度、情報の共有のありかたを見つめ直して新しい方向性でリスタートしたいと考えています。
BS ブルースタジオの仕事をするようになったきっかけってあるんですか?
AI ブルースタジオのメンバーとは、もともと学生時代からの友人でしたから。ブルースタジオは最初の頃はセルフビルド的な施工も行なっていましたよね。僕の最初の仕事は解体現場の産廃を処分場まで運ぶ仕事でしたよ(笑)。協同での設計の依頼をうけたのは、その後。
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展覧会出品予定の家具の初期スケッチ
BS 福島の物件ですね?
AI そう。いきなり地方に飛ばされた(笑)。でも有難いことにいまだに福島とは御縁が続いていますよね。今現在は賃貸マンションの共用部と設備の改修工事を行なっています。ホームページ上では内装のデザイン的な部分に目が行きがちですが、一方でブルースタジオは建築設備の改修や外壁の補修といった実利的な渋い部分も行なっています。
BS ブルースタジオの仕事での設計の進め方は?
AI ブルースタジオの仕事で設計をする時は、基本的にはブルースタジオのコンセプトを重視して、それを僕自身がどう味つけするかって考えてる。
BS なんか料理人みたいですね。
AI そうホント料理みたいだよね。まず素材を渡されるわけ。でお客さんはこういう方だから、こんな感じの献立でって感じで。あくまでもたとえ話だけれど。高い素材をそのまま活かす場合もあれば、安い素材組合せることで味を引きだしたり。僕なりのレシピとソースで味付けしていくわけ。いろんな条件の中で料理しなければならないから、自分が十分に満足できるモノが作れない場合だってあるし、完成してからも他のアイデアもあったとかやっぱりあるんだよね。実際的なな話しをすれば、職人さんとの協同作業でもあるから、職人さんの技量的な部分や限られた時間と予算でどこまでいいモノをつくれるかって事だと思う。
BS リノベーションに対して石川さんはどう思われますか?
AI 元々あるモノに対して違う価値をつっこんでいくっていう部分はおもしろいね。時間が経ったモノって記憶みたいなものがしみついていると思うんだよ。人の生活していた記憶だったり、それを取り囲む空気だったり。その中で大切だと思う部分を残しつつ僕なりの裂け目を入れて、そのモノの意味合いをほんの少し変化させてあげる。そういったモノのつくりかたっていうのは面白いし、僕自身、性にあってる部分もある。
BS 石川さんは家具づくりもされていて展覧会があるそうですが?
AI リビングセンターOZONEと家具産地である四国徳島の家具開発事業の最初の一歩として9月26日から10月8日までOZONE6F・リビングデザインギャラリー(新宿)で「生活再創ファニチャー展」が催されます。今回はブルースタジオで提案しているようなスケルトンリノベーションしたマンションでのライフスタイルを想定して、生活シーンに合わせて可動する間仕切家具を中心に試作品が展示される予定です。
BS ぜひ展覧会見ににいきたいと思います。本日は貴重なお話ありがとうございました。

2002年9月6日(金)渋谷区大山町 石川氏事務所にて
インタビュアー:多田義孝(blue studio)

石川彰久

Akihisa Ishikawa

武蔵野美術大学大学院終了後、96年友人たちとeifuku design baseを設立。
現在Tide Architects Workshopを主宰。
中小企業が開発した優良建材を独自の目で選び紹介するmaterial databaseの運営メンバーでもある。





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