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INTERVIEW No.23


イメージをカタチに

森田基治 / Motoharu Morita

130年以上の歴史を持つ日本の郵便切手。現在、郵便切手の企画・デザインを一手に任されているのが郵政公社「切手デザイン室」の5人(たった5人!)である。その室長である森田基治氏にお話しを伺った。

ブルースタジオ(以下BS) 森田基治(以下MM)

デザインとは「イメージをカタチにすること」

BS かなり漠然とした話しなんですが、、、森田さんにお伺いしたいのは、「デザインするとは何か?」ということについてなんです。
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MM 、、、さて、何から話したらいいかな、、、?...design...日本語で言うと「意匠」ですよね。「意」というのは、「心」あるいは現代的に は「image」です。「匠」というのは、「たくみ」「技術」ということです。つまり「design」とは、「イメージをカタチにする技」ということなん ですよ。
BS 具現化する、実現するということですか。
MM そう。imageがimageで終わってしまっては、それはdesignしたとは言えないんです。今でこそグラフィックデザイナーだとか、プロダク トデザイナーだとか細分化されていますけれど、imageしたことをカタチにしてそれを現実のものにしていく、、、そういうことでいうと、、尾形光琳も宗達も千利休も、、、彼らも皆デザイナーだと思うんですよ。それから、150年程前に近代郵便制度を考案したイギリスのローランド・ヒル、日本でいうと前島密、彼らもデザイナーなんですよ。それまでなにも無かった制度をimageしてそれを具現化したという意味では。
BS そうですね。今では当たり前の郵便制度ですが、無いところからそれをイメージしてつくるんですから、壮大なデザインですね。
MM そう。それから、これはかなり難しいことなんだけれど、「誰が見ても同じものに見える」ようにすること。・・・例えば、ここにコーヒーカップとソーサーがありますけれど、この物体を「コーヒーカップ」と認識できない世界も現実にあったんですよ。食べ物を乗せるのが葉っぱ、飲み物をすくうのはこの手のひら、、、そういう世界ではこれはなんだか分からない物体だと思うんですよ。社会の発達や情報を理解し、それと歩調を同じくして、「誰が見ても同じものに 見える」ものをデザインする、更に言えば「一歩先のイメージをカタチにつくる」のがデザイナーの仕事だと思うんですよ。

切手の意味

BS これは愚問かもしれませんが、「こんなに種類が要るかな?」というところはありませんか?
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「国威高揚」のメッセージが込められている(復刻)
MM まず、お金でも1円玉から1万円札までいろんな種類があるように、切手も有価証券ですから料金によって基本的な種類が要るわけですね、これは普通切 手のバリエーションに発展していきます。記念切手のバリエーションは軍事的なところが起原になっています。強い軍事力をもって他国を侵略した時にまず代えるのは貨幣と切手で、つまりこの二つは国の力を示す大きなファクターだったわけですよ。日露戦争に勝ち、日清戦争に勝ち、、、そういう主旨の切手が出てくるわけです。戦時中は「国威高揚」、、、ほら、、、切手にも菊の御紋がついているでしょう。そして戦後は「産業図案」、、、「日本の国の産業は今でもこん なに残っていますよ、だから皆がんばろう」っていうメッセージを込めて発行されているんですよ。
BS つまり、国からのメッセージ(情報)の媒体になっているのがこの小さなグラフィックデザインとも言えるわけですね。
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本「戦後復興」のメッセージが込められている(産業図案)
MM そうです。その後の東京オリンピックの時、あるいは今の天皇陛下のご成婚記念の時にもやはり大量に切手は収集され、切手ブームになりました。こうい うキャンペーンメッセージという背景があって、切手の種類は増えていきます。ところが電話が普及し、ラジオ・テレビ・雑誌が普及してくると、切手の「情報 を伝える」役割は少しずつ失われていくことになります。
BS なるほど。東京オリンピックやミッチーブームはちょうどテレビの普及する時期と重なりますね。
MM そう。そうしてその後、切手は「情報を伝える切手」から「投機対象としての切手」に変化していき、収集するという人も増えてきました。更にここ20 年くらいでは、「投機対象としての切手」から、「楽しむための切手」といった方向に人々の関心は徐々に変わって来ましたね。
BS そう、たまたま事務所に届いた封筒をいくつか持ってきたんですが、中にはこんなに素敵な切手が貼ってあるものがあるんです。こんな切手で送られてき たら中を見る方もワクワクしますよね。「こんなに楽しい切手があったんだな」と、今回改めてビックリしました。
MM そうですよね。「書くこと」そのものを楽しむ人は増えていますね。例えばこれはオランダのDick Brunaを原画に起用するという企画だけれども、わたしたちも「楽しむための切手」という考え方で企画を立てることは多い。
BS 「国威高揚」の頃の「情報を伝える切手」から現代の「楽しむための切手」まで、相当な変化を遂げて来たということですね。
MM その通りです。

「もうそんな時代じゃないだろう!」

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中央や下に汽車のイラストが見える

BS Dick Brunaの話が出ました。この切手の場合を例にとったとして、企画が決定するところから切手ができるまでの仕事の流れというのを教えていただけますか、、、?
MM このタイプは、私たちは「特殊切手」と呼んでいて、「記念切手」と「普通切手」の中間に位置します。「記念切手」は各省庁にテーマを出してもらっ て、そこから外部の方に意見を出していただきながら絞り込んでいくんですが、「特殊切手」と「普通切手」は郵政公社が独自に企画してデザインして発行しま す。Brunaの切手に関しても、私たちが独自に企画したものです。
BS 世界中のグラフィックデザイナーから、ふさわしい人をまず選択するということですよね。
MM 大袈裟に言えばそういうことになりますね。それから、僕の方でおおよそのデザインのイメージをつくって、Brunaのところに持っていくんですよ。 それで彼と相談しながら、ここはこうしよう、ああしようって言うような話をしていくわけですね。そして、Brunaが一つひとつパーツごとの絵を書いて、 最終的なものをこっちに送ってくるんですが、それを私達の方で印刷に出せるような原稿に変えていきます。
BS このシート全体の割り、つまりここに家の絵があって、バックグラウンドのアルファベットはこうで、ここが切手として切り抜けるようになっていて、、、と言うのは森田さんのアイディアでしょうか。
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MM そうですね。それから、ここは汽車になってますけど、はじめ私が持っていったイメージでは鉛筆だったりしたわけですよ。ところが、Brunaの方から「ここは、鉛筆より汽車がいいなあ」とかいう話にもなり、そういうやり取りや調整をして決めていきます。
BS 外国人デザイナーBruna氏を起用するという企画、今までの日本の郵便切手にはない画期的なものだったんではないでしょうか?
MM 日本の切手のデザインに外国人が使われたのは、大きな話で言うとBrunaは実は2人目なんです。1人目は明治時代。Chiosoneという人が招かれて、彼は紙幣と切手のデザインをしました。
BS 東京帝国大学に御雇建築家コンドルが来たような、そういう時代ですよね。でもBrunaとChiosoneでは招聘の意味合いがまったく違うんでしょうね。Brunaをパートナーに選ばれた真意は?
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Brunaと共同して切手だけでなく絵本も制作
MM 今までは、郵便切手は「ナショナリズム」「その国独自のもの」と言う感覚がいわゆる常識だったわけですよ。私が考えたのは、「もうそんな時代じゃないだろう」と。「海外の人も含めて、誰でもが知っていて、誰でもが親しめるというものにしていかなくてはいけないだろう。」そう考えたんです。実は、私が招かれて海外の切手のデザインをしたこともありました。
BS なるほど、実際にそうして発行されている切手があるわけですから、僕達は既にそういう時代に生きているということを実感できるお話です。そういう意味では、常識を打破する画期的な切手ですね。

「鳥シリーズ」の原画拝見!

BS 以前手紙を書いていたような内容がメールに置き換わり、情報の伝達手段は変化していると感じます。その変化に伴って、郵便制度そのものが縮小していくと か、変革を求められるとか、そういう可能性があるのではないか、、、この認識は合っていますでしょうか、間違っているでしょうか。
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切手のデザインは、企画から始まる。
時には、絵本やリーフレットも制作。
MM 間違っていると思います。確かにあなた方の世代でそれはある程度事実かもしれませんが、日本はこれから高齢化社会です。実際に、郵便の数が減っているということは決してありません。請求書も、年賀状も、結婚式案内状、、、やっぱり郵便です。ただ、世代によっても、また性別によっても手紙を書く頻度というのは違うものです、若い人たちの文字を書く率というのは減っているんです。確実に。ボタンを押す率は増えているんだけど。。。だから、私たちは、特に若い人たちに「もっと手紙を書いてもらいたい」という狙いはありますね。それで切手のデザインの意図もターゲットも、若い人にウェイトを置くように徐々にシフトしているのは事実です。
BS 今まで、「切手デザイナー」である森田さんたちがマスコミ等に取り上げられるときに、「公務員にデザイナーがいる!?」のような切り口が多かったとおっしゃってらっしゃいましたが、確かに少し意外です。この「切手デザイン室」のオリジンというのは、どの辺にあるのでしょうか?
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アトムシリーズ
MM 江戸幕府の時には「お抱え絵師」と呼ばれる人たちがいました、、、それはつまり狩野派のことです。後に天皇中心の世の中になってくると、国のために 「絵を描く」人々は、「帝室技芸員」と呼ばれるようになります。写真がまだそんなに普及していない時代ですから、「絵を描く」という仕事が国の権威を示す為にも大変貴重な存在だったんですね。二条城の壁画を描き、戦争の様子をすぐに描くといった具合です。その名前を受け継いだのが「技芸官」で、われわれも 以前はそのように呼ばれていました。その後、ここの部署は郵政省から総務省に一時移され、「切手デザイン室」と呼ばれるようになりました。そして去年郵政公社ができた時にまた戻ってきて呼び名は「切手デザイン室」を引き継いでいます。
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原画を手にする森田氏
BS 切手の制作方法などは、やっぱり変わってきたんでしょうか?今ではもちろんデジタルだと思いますが、手書きの時代からデジタルに移行していくのはいつの頃からでしょうか。
MM 5年程前じゃないでしょうか?・・・(おもむろに、何枚かの絵を持ってくる)・・・これが手書きの原画ですよ!!!
BS !!!!!これ、原画、、、本物ですね!当たり前ですが日本に一枚しかありませんよね!!!絵はものすごく大きいし、逆に実に細かい、、、いやあ、いつも大変お世話になっております。。。(笑)
MM これは今出ている普通切手の「鳥のシリーズ」ですよね。大きさは6倍大。これらは全て、3~4色で印刷出来るということと、上下の色はスタンプを自動で押す時検知が可能なような指定色であることが必要です。また年間に何億枚も刷りますから褪色や変色しないように印刷の版の構成・設計が必要になってき ます・・・ただ「いいテーマを上手く描けば良い」というわけではありません・・・そういったことを全部考慮に入れながら絵を描いていくわけですね。

「デザイナーは今までなかった共通のイメージをカタチに出来なくてはいけない。つまりデザイナーは何でも出来なければい けない。」彼がそう言ったとき、「絵を描くだけでそれで良いということではないわけですね」と返すと否定された。「絵を描く」ということそのものに包含さ れる力は、想像よりもっと大きい。

2004年1月 郵政公社切手デザイン室にて
インタビュアー:泥谷英明(blue studio)
撮影:武井良介

森田基治

Motoharu Morita

1951 東京生まれ
1975 多摩美術大学グラフィックデザイン科卒
1976 郵政省入省
1977 ロットリングイラストコンペ・グランプリ受賞
1982 朱鷺を描いた切手でウィーン国際切手展デザインコンテスト・銅賞受賞
1994 多摩川高島屋・絵画個展





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