blue studioトップページ > Magazine > INTERVIEW > No.25 <投資の哲学> 高橋 守 / Mamoru Takahashi
INTERVIEW No.25
高橋 守 / Mamoru Takahashi
金融・投資の知識と経験、そして人脈を武器に世界中を飛び回りビジネスをダイナミッ クに展開する高橋氏。「日本では金融・不動産の教育が遅れている」と言われるよう になった昨今、「基本こそ大切で深いはずだ」ということで、無理にお願いをしてス ペシャル・レクチャーをしていただきました。
ブルースタジオ(以下BS) 高橋 守(以下MT)
アジアを舞台として
BS | アジアの大学に留学された頃から、また、日本で就職されてからもなお、アジア志向というか、アジアに魅力を感じていらっしゃったと いうことのようですが、「経済成長が見込まれる」とか「人口が多く大きなマーケットだ」といったような、したたかな"読み"があったんでしょうか? |
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MT | ん・・・というよりも、アジアの人たちの方が親近感があるんですよ。やっぱり、、、その中でも、いろいろ付き合っていくと、その中でも中 華圏の人というのは感覚が近いですよね、シンガポール人、フィリピンにいる華僑、香港人、上海人、北京の方、、、話していて楽しいし、感覚が近いので信頼 も出来るし・・・だからだと思いますよ、アジアを選んだのは。 |
BS | 確か、高橋さんは台湾でベンチャーキャピタルの社長さんでしたよね。 |
MT | そう。だけど、金融危機もあってなかなか銀行でもお金をかせなくなったこともあったので、不動産コンサルもやっていたんです。それで儲かってはいた んだけれど、政策的な指示もあって台湾の会社を閉めることになり、香港の奥村(当時住友信託銀行香港支店)と私とで台湾のお客さんに挨拶に廻ったんです。 親しくしていただいたあるお客さんが私の送別会をして下さりましたが、その席で言われた言葉はまだよく覚えています。「高橋君、君も日本に帰るのか・・・ そうやって高橋君もしがない銀行員に戻るんだね。やっぱり君も普通の日本人だよ」ってそのお客さんが言うわけですよ。「中国人はこういう時にチャンスだと 考えて独立するんだ。人間には全て平等にチャンスが来るが、チャンスであることに気付かない人もいれば、チャンスだと気付いていながら掴まない人もいる。 高橋君は、香港にも台湾にもこんなにお客さんがいるのに日本に帰ってしまうなんて、明らかにチャンスだと知っているのに見逃しているんだ。」それを聞いて 感化されたのは、私以上に、香港の奥村だったんですよ(笑)。彼はその後に会社を辞めたんです。 |
BS | そんな話があったんですね、、、その後、高橋さんは日本に帰ってこられるわけですか? |
MT | いや、そうではなくて、奥村を連れてオーストラリアの投資銀行に入ってアジアのお客さん向けの不動産投資ファンドを組成したんですよ。 |
BS | なるほど、、、チャンスを掴んだわけですね。そのファンドでお金を集めて日本の不動産に投資したんですね。 |
MT | そう。そのはずだったんだけど、そう簡単ではなかった。上手くお金が集まらなかったんですよ。 |
BS | それで次の一手、どうされましたか? |
MT | それで、会社をつくって独立したわけです。 |
BS | 香港で、ですよね。 |
MT | そうです。この会社は、初めはファンドでお金を集めようということではなくて、不動産投資コンサルタントとしてスタートしたんです。 |
アメリカ、日本、中国
BS | つまり、アジアの投資家たちが日本の不動産に投資しようとしていたということだと思うのですが、逆に今、日本の投資家が中国に投資しようとしているし、高橋さんもそのコンサルティングに積極的に動かれている。今のこの方向性は、当時から予測されていましたか? |
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MT | いや、その頃はまったくそうは思っていなかったです。 |
BS | 今、逆流が起きているということなのでしょうか? |
MT | 逆流というのは、ちょっと違うかも知れない・・・というのも、私たちの顧客というのは華僑の投資家の中でも比較的保守的なスタンスを取る方々だった んですよ。つまり、彼らは中国に投資をするという事は決してせず、過去、アメリカやイギリスに投資してきたわけです。つまり・・・不良債権ですね。アメリ カも90年代前半はものすごく景気が悪かったんですよ。アメリカの不動産価格が暴落したタイミングで不良債権に投資をして、莫大な財産を築いてきたのが彼 らです。そんな彼らのことですから日本の景気が悪いのを見て「いつかは景気も良くなり、不動産価格も上がるだろう」と当然考えるわけですよ。それで、彼ら は日本を狙っていたわけです。要するに、先進国では不動産価格は景気の波に連動して動いているだけで、経済が成長して上がるということはないんですよ。成 長しないから。だけど、、、 |
BS | 中国は違う。 |
MT | そういうことです。だけど、華僑の保守的な投資家たちは先進国で稼いでいて、中国に投資するようなメンタリティーがなかったんですよ。つまり、彼ら は中国のことが心底嫌いなんです。戦争の時も、文化大革命の時も徹底的に財産を潰されてきたから。彼らにとって、中国という場所は「絶対に投資しないとこ ろ」だったわけですよ。なのに、そういう保守的な投資家たちですら中国に投資しはじめたわけで、これはつまり、中国への投資のリスクが低減してきたという 事実の現れだったわけですよ。中国投資が魅力的になって来たということですね。 |
BS | それはいつ頃から始まったのでしょうか。 |
MT | そう、、、2001年か、2002年か、、、 |
BS | そんな最近のことなんですか・・・ |
MT | その一方、日本では98年から2000年にかけて、不動産を買うような人なんていなかったわけですよ。国内にほとんど。ファンドもなかったし。はじ めて買手として名乗りを上げたのは、におそらく米国系ファンドだったと思いますが、、、彼らが出てきた頃は、完全に'買い手市場'だったわけですよ。 |
BS | 叩いて買える。 |
MT | そう。売る人ばかりで買う人がいなかったですから、日本人って本当は外資に売りたくなんかなかったんだけど、外国人でも相手しないといけない状況 だったんですよ。デューデリジェンスとか言ってコンクリートを細かいところまで調べて「この建物は、かくかくしかじか・・・」なんてやりはじめるし、買付 は入れるけど、買いやしないし。。。契約書は英語だし。。。でも当時、彼ら以外には誰も買ってはくれないから仕方なかったんです。 |
BS | なるほど・・・売る方にとってはつらい話しですね。 |
MT | そう。だけど、今では国内にもファンドもできて、リートもできて、、、ノンリコースローンだとかできて、はっきり言って外国人は日本でもう買えなく なってしまったんですよ。だからわれわれの役割もそこで終わってしまったんですね。ある意味から言うと、、、 |
BS | 外国人が東京に投資する際のコンサルティングという役割が終わったと言うことですね。 |
MT | そうです。お客さんが、中国に投資しはじめたわけですから、われわれもそれを拾わなくてはいけないと言うことで、それで上海に飛んで会社をつくったわけですよ。 |
投資の哲学
BS | 「投資」という概念について、分かりやすくご説明頂けませんか? |
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MT | これは不動産の場合での、香港や台湾の投資家が考える「投資の哲学」なんですが、まず経済が成長している国では、不動産価格は成長と共に上昇します。 |
BS | 中国ではまさにその状況ですね。 |
MT | そう。それから、日本もかつてはそうだったわけです。ずーっと価格が上がっていったわけです。 |
BS | バブルまでは。 |
MT | そう、バブルまでは。バブルまでは、不動産価格上昇のカーブと経済成長のカーブは平行しているわけです。次に、経済が成長しきった国の場合ですが、 そういった場所では不動産価格は単純に上昇しません。価格の上下は、景気に従うことになります。日本でもバブルがはじけて不動産価格が暴落、20年以上も 前の水準にまで戻って、今頃になってやっと東京なんかでは底を突いて少しずつ上がりはじめたかな、、、というところまで来ました。 |
BS | 今のお話しが、ファーストフェーズ/セカンドフェーズとすると、セカンドフェーズに入った国はもうファーストフェーズには戻らないということですか? |
MT | もちろん。戻らない。日本だって、これからもう一度高度成長を経験するということはあり得ないですから。 |
BS | なるほど、、、日本はもう成長しない、、、 |
MT | 不景気になったら、不動産価格は暴落します。不動産は金額が大きいので普通は融資を受けますよね。だからキャッシュで買う人はとても少ないのです。 不景気になると、銀行が貸さなくなりますので、買う人が極端に少なくなります。また、投資している人が破綻するので、投げ売り状態になっていきます・・・ ところが・・・華僑がすごいのは、落ちた時に、誰も買えなくなった時に、現金で買うんですよ。 |
BS | 現金を持っているんですね。 |
MT | そう、だけど景気はいつまでも悪いということはありません。景気が良くなると銀行が貸すようになってきます。また、景気が良くなるということは儲か る人が増えるということですので買う人が増えますよね。その時に売るわけです。 |
BS | 例えば、今の東京。 |
MT | そう、今の東京。それから、通常は、不動産の価格が上がるのは、景気が良くなった少し後ですから、景気が良くなり出した時に買ってもまだ遅くないわ けですよ。彼らは、世界中を見渡して、景気が悪くてこれから上がりそうな国に投資をします。・・・先進国の話ですが・・・しばらくしてその国の景気が上 がったところで売り抜けて現金化したときに、また世界中を見渡して景気の悪いところに投資をする・・・彼らはこれをくり返しているわけです。こういう不動 産価格の大きな流れを掴まなければいけないわけです。 |
BS | 「投資の哲学」って感じになってきましたね。 |
MT | 日本人が失敗してしまったのは、日本だけを見ていたからですよ・・・不動産も、株も。結局。99回成功して、最後の1回の失敗で身ぐるみ剥がされて いるんですよ。不動産で設けた金をまた不動産に投資するから、最後には失敗するんですよ。投資の鉄人達は、絶対に深追いしない。そして、同じマーケットで 投資しない。必ず下がりますから。 |
BS | なるほど。 |
MT | さらに、彼らはそういった「投資の哲学」を持っていると同時に、投資する前に税金をミニマムにする方法をまず考えるんですよ。儲けた金をできるだけ取られないようにする方法です。 |
BS | いわゆる「節税」ですね。 |
バブルとは何か?
MT | 不動産で大儲けする為には、必ず押さえておかなくてはならないことが幾つかあります。まず、先程言ったように(1)景気の大きな流れを読む。(2)投資す る前から税金対策を考える。(3)可能なだけレバレッジをかける。(4)ファンドをつくる。・・・これが基本的な戦略です。 |
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BS | かなり発展してきましたが、、、レバレッジをかけるということは、つまり自己資金をできるだけ小さくするということですが、よく「テコの原理」など と言われています。このメリットを分かりやすくご説明頂けますか?借り入れを増やすということは、金利上昇リスクなど新たなリスクも生じるとは思うのですが、、、 |
MT | つまり、1000万円で物件を買ったとしますよね。これは通常1億にはなりません・・・バブルの時は別としてね。例えば、景気がよくなってその 1000万円の物件が2000万になったとしましょうか。これを全額自己資金でやったとしますと、手持ち資金が2倍になった計算です。逆に、9割の900 万円を借り入れて、100万円の自己資金で行ったとしましょう。物件が2000万円になれば900万を返したとしても1100万円残ります。つまり、手持 ち資金は100万から1100万に11倍になるわけで、ここに借り入れをする最大のメリットがあります。レバレッジ効果です。 |
BS | 東京の不動産ほど、劇的に上がって、劇的に下がった場所は世界的にもないと思いますし、それで多くの日本人は大損をしたわけですが、先程の話で言う と結局、ファーストフェーズからセカンドフェーズに移る時にガクって落ちるわけですよね。イギリスやアメリカなど先にセカンドフェーズに入った国を観察し ていて「バブルがはじける」と言うことに気付くことは出来なかったんでしょうか? |
MT | あれは、ある意味で政策の間違いだったんですよ。それに乗った銀行も、投資家も間違いだったんではないでしょうか? |
BS | 以前、高橋さんは「上海の不動産の状況は少しバブルだ」とおっしゃっていました。これは、日本のわれわれが経験したバブルとは違うものですか? |
MT | 「バブル」という言葉の定義にも気を付けなくてはなりません。日本人は「バブル」と言うと「バブルの頂点」と「落ちる」ことだけを連想し、「恐い」 という心理が働くようになってしまいました。経験的に。上海ではマーケットが本当の意味で成熟した99年頃が不動産の始まりだと私は考えているのですが、 それから毎年10%ずつ、不動産価格が上がっています。これはバブルなのか?・・・違います。何故か?経済も10%ずつ並行して成長しているからです。と ころが、去年はじめて不動産価格だけが30%上がりました。20%のプレミアムが付いていることになります。これはひょっとするとバブルの入口かも知れな い。そのようには考えています。バブルだからといって怖がってはいけません。落ちることを「バブル」と言うのではなく、落ちる前を「バブル」と言うのです・・・だから・・・儲けることを考えればいいじゃないか。そう思うわけです。 |
BS | 上海に投資するには、非常にいいタイミングだという事ですね。 |
MT | そうです。まず、これかも上海の不動産価格は上がるでしょう。加えてもうひとつ、人民元の切り上げの話をしなくてはなりません。私は、人民元の切り 上げが一度にではなく中長期的に少しずつ切り上げられていくのではないかと考えています。 |
BS | ソフトランディング。 |
MT | そう。このことは、万一不動産価格が下がったとしてもその場合のリスクをカバーする要因になります。もちろん、本心では不動産価格も上がり、切り上 げで通貨も上がると考えているわけですが、、、そういった意味では、非常に魅力的な投資なのではないかと言えるわけです。 |
人気のリノベーション
BS | 古い物件をリノベーションするということも、盛んなようですね。 |
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MT | そう。上海には老房子(ラオファンツ)っていうものがありまして、我々はこういう味のある物件を日本語で「古い洋館」って呼んでいるんです。これは 特殊なマーケットでかなりの高額で取り引きされていますが、日本人が売主の物件がありましたから、買っている人がいらっしゃることは確かです。もともと大 戦前に欧米人が住んでいた一戸建や連棟式のアパートですが、これらの洋館をフルリノベーションしてレストランにしたり、カフェにしたり、バーにしたり、欧 米人用の賃貸物件にしたり、、、いろいろな使い方が提案されています。新しい物件にはない魅力もあり、またこれが単体の建物ではなく隣接する複数の建物を まとめてエリアでリノベーションが展開していて、感動的ですらあります。 |
BS | ご存じのように、日本でもずいぶんリノベーションが盛んになって来ました。特に、日本橋や築地など城東エリアで、魅力的なリノベーションエリアが展開する「可能性はあり」とみてらっしゃいますか。 |
MT | そうだな~。難しいかもしれない。権利関係が複雑すぎるから。中国でそれが出来るのは、土地が全て国家所有のものだからですよ。ブルースタジオの物 件が中国に出来てもいいんじゃないですか???リノベーションするなら、中国はとても良い条件が揃っていますよ。 |
BS | 投資家の視点からリノベーションを考えた時に、ポイントとなるのはどんな点ですか? |
MT | 結局のところ「得をするかどうか」です。でも、確実に言えることは、物件を選ぶときに成功すれば半分以上は成功じゃないでしょうか。リノベーション の内容についてはブルースタジオに任せておけば安心です・・・か? |
BS | 安心ですよ。・・・ありがとうございます。 |
MT | 成否は、良い物件と出会えるかどうかですね。 |
BS | 高橋さんのお話のなかででてきた「利益」という言葉は全てキャピタルゲインを指していますよね。 |
MT | そう。 |
BS | 高橋さん個人も日本でアパート経営されているのでもちろんお分かり頂けると思いますが、日本の投資家が不動産の現場で聞かされるのは「キャピタルゲ インからインカムゲインへ」と言う話がほとんどだと思います。そうした中で今のお話は新鮮です。 |
MT | 実際に上海の不動産に投資した方のお話ですが、投資に踏み切った理由として3つ挙げらっしゃいました。1つ目は、高度成長をしている国に個人として 投資する方法があるのであれば「やってみたい」という単純な気持ち。2つ目は、リスクヘッジとしての外貨資産の保有つまり資産分散。3つ目は、「キャピタ ルゲインを経験したい」つまり欲望ですが、高度成長を知らない若い世代がこう感じても自然ではないでしょうか。日本にいると、「インカムゲインしかない/ キャピタル狙いは時代錯誤だ」みたいに聞かされますが、そんなことはない、キャピタルゲインの世界ももちろんあるわけです。 |
BS | それと、人民元切り上げで得をするのは外国人だからですよね。 |
MT | そう。中国人は、土地の値上がり分しかメリットを享受できません。逆にわれわれ日本人も高度成長時に不動産価格の上昇や円の切り上げも経験しました。この時に外国人が日本の不動産を買っていたとしましょう・・・。 |
BS | ダブルですよね。 |
MT | ダブル。日本で起こったことが、中国で起こる可能性は十分にあるし、ダブルで儲かるわけです。 |
「これから不動産投資をしようとする方にアドバイスがあるとすると?」という問いに対しては「私がみなさんに言っている のは、例えば上海だけに全財産を注ぎ込んではいけません。どんな投資でもリスクはありますし、分散投資の1つとして考えて下さい」と高橋氏。自称「良心的 スポークスマン」が示した「投資の哲学」に従って、みなさんもリスクとリターンをテイクしましょう。
2004年3月22日 bluestudioにて
インタビュアー:泥谷英明(blue studio)
撮影:武井良介 (一部)
高橋 守
Mamoru Takahashi
<高橋 守>
1978年一橋大学社会学部 卒。
フィリピンアダムソン大学、メキシコユカタン州立大学 に留学。
英語、中国語広東語、スペイン語に堪能。台湾、香港、シンガポール等華僑に幅広い交流を持つ。
国際金融、ベンチャー投資、不動産投資、不動産ファ ンド等広範な知識と実務経験の持ち主。
現在、ライジングジャパン代表取締役、ベターハウス東京事務所長。
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