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INTERVIEW No.33


仮想リノベ展
キックオフ対談

馬場正尊×石井健 / Masataka BABA×Takeshi ISHII

頼まれてもいないのに「リノベ展」という建築展があったと仮定。その会場予定地の都内Xビルの現地視察を終えた後、場所をHolic Houseに移してコーディネーターに内定の馬場氏×石井(ブルースタジオ)で対談を行いました。

ブルースタジオ(以下BS) 馬場正尊(以下馬場) 石井健(以下石井)

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HOLIC HOUSEにて

BS Q.1 東京で最も印象的なリノベーションプロジェクトは? (自己物件以外で)
馬場 臨海副都心かな?
石井 ???(難しいです)
BS Q.2 東京で「こりゃないだろ~」的なリノベーションプロジェクトは?
馬場 掲載不可(ピーッ)
石井 タマシイがないもの。「無垢材でレトロ」等、リノベを記号化しているもの。
BS お2人とも、Q1,2は非常に悩まれていましたが......
馬場 難しいですよ~これは。
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©Daici Ano 馬場氏設計のRE-KNOW
石井 東京じゃなかったらあるんだけどなあ...(心斎橋の駐車場とか)......(笑)
BS よく解釈して「東京のリノベーションシーンはまだまだ発展途上の段階だ」とでも言っておきましょうか。 販売物件や賃貸物件だけでなく、もう少し「リノベーション」を拡大解釈してビルや店舗の場合はどうでしょうか?
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石井 店舗だったらいろいろあるかもしれないけど・・・店舗は元々スケルトン渡しでスケルトン原状回復だったりするじゃないですか。
馬場 そう!オフィスも含めて、商業系ってある意味「リノベーションが普通」で、今までなぜか住居だけがリノベーションの枠の外にあったんですよ・・・それがリノベーションの枠の中に入ってきただけなんじゃないかな。住居が商業化している気もするけど。
石井 住居がリノベの枠の外にあった理由は、住居がお金を生み出さないからですよ。
馬場 !そうか・・・住むだけだから!それが不動産物件になって、住宅の賃料をもとに収益還元法の発想に立った途端に、これが一気に加速してきているというわけですね。
石井 そう。そういう意味ではリノベーションはまだ発展途上かもしれない。これから将来、ループやクラスカ、RE-KNOWやHOLICHOUSEが毎月のように出てくるようになればそれは面白いですね。手前味噌になりますけど、ブルースタジオでやってきたファンドなんかは中期的にリノベーションが継続した希有な例だったと思います。海外投資家のプライベートファンドに継続的に物件を取得してもらいそれをブルースタジオでリノベーションしてからリセールするというスキームだったんですが、建築業界で考えられているリノベーションを一通りやりながらもそれが金融システムに乗っかってやっていたという点が面白いんです。
馬場 リノベーションの今の状況に金融の果たしている役割はとても大きいんじゃないでしょうか。金融システムの流入によってデザインが加速してきたという現象を我々は見ているように思うんですよ。デザインだけでも、金融システムだけでもこういう状況はつくり得なかったかもしれませんが、どこかの時点で幸せな出会いをして一気にポンッと違う次元に言った気がしますよね。
石井 そうですね。
馬場 今の仕事をやっていながらよく思うんですが、元々「モダニズム」って言うのは、シンプルなスケルトンの空間を作って「その中で自由な使い方をしていきましょうよ」っていう「ビルディングタイプレス」の思想だった訳じゃない。・・・つまりシンプルな空間が、コンテンツやソフトによってオフィスに変わったり、住居に変わったり、商業に変わったり、これがモダニズムの基本だとするならばですよ、、我々は今、本当に基本的な作業をやっているんじゃないか、という気が最近している。
BS Q.3 東京23区テスト ○○を回答してください。
   ア)23区で一人当たりの乗用車保有数が一番多いのは○○区
   イ)23区でわいせつ行為が最も多いのは○○区
   ウ)23区で平均月収が最も高いのは○○区
   エ)23区でワンルームマンションの平均賃料が最も高いのは○○区
   オ)23区で最もパチンコ店の多いのは○○区
馬場 ア)北 イ)台東 ウ)港 エ)港 オ)新宿      →正解1問
石井 ア)世田谷 イ)港 ウ)新宿 エ)渋谷 オ)大田       →正解1問
BS 正解  ア)北 イ)江戸川 ウ)世田谷 エ)新宿 オ)大田
馬場 え?1問しか正解じゃないの?え?パチンコは大田区が一番多いの?ホント?
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ブルースタジオのサイトで多数紹介している以外にも石井はリノベーション住宅を年間30件のペースで設計する。
石井 僕はこれだけ合ってて、同じく1問正解です。
BS 大田区は、大井競馬場や平和島競艇場などが合って、ギャンブル好きな土地柄らしいですね。
石井 さすが、大田区民だけあって僕はパチンコだけ正解してる(笑)。
BS Q.4 リノベーションにとって最大の機会は?
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馬場 ファンドや流動化手法の多様化
石井 サプライサイドの住宅供給システムの崩壊
馬場 機会としては、ミクロ的には物件のオーナーが変わる瞬間だとも思うんですが、もう少し拡大解釈すれば、金融システムがいまよりもっと活発になるということではないでしょうか。ファンドが拡大すれば、リノベーションの状況も変わるかな?というような。
石井 ファンドでいくつかは案件もありますけれど、リノベーションでビジネスのカタチに持っていくまではとても労力がかかり簡単ではありません。確かにリニューアルファンドは増えていますが、中身はリフォームです。光ファイバーを新規に導入したり、設備を更新したり、エントランスを明るくしたり、、、供給サイドで考えると「いかに安く新築同然の状態をつくるか」に収斂していってしまうんだと思うんですよ。雑誌でリノベーションが登場する機会は増えても、またリニューアルファンドが増えても、我々が目指すリノベーションやコンバージョンを継続実行しているところはまだ稀少です。「売りつけられるモノは嫌だ!」という「新築絶望派」とでも呼べるような人たち確実に増えていることもあり、僕の解答は「ユーザーのマーケットを増やしていく方が結果的に早いのではないか」ということです。
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BS Q.5 リノベーションにとって最大の脅威は?
馬場 行政の対応
石井 「デザイナーズ」のように内容が記号化していくこと
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馬場 これ(行政)は間違いなく脅威ですね。たぶん、実例が少ないのでどうしていいか対応がわからない、だからダメというのが多いような気がする。合理的な判断に基づいてはいませんよね。仕方ないとは思いますが。行政もコンバージョンへの助成金制度なんかをつくってますが、どちらかというと法律の緩和要項なんかを先に整備して欲しい。現行法にあわせるために、わけわかんないところにお金がかかる。それがブレークになって「やっぱ用途変更できませんね、だからリノベっめましょう」ってことになる。規模が小さい場合はいいけど、大きくなるとそこがどうしても問題になってきます。
石井 ここのHOLIC HOUSEにしても、本当は壁も全てスケルトンの状態で賃貸に出したかったんですが、これも行政の指導でダメ!行政の考え方一つで、建設コストに大きくはね返ってくる・・・。
馬場 確かに行政はブレーキをかける役割ってあるとは思います。以前取材に行ったシカゴでも、はじめの行政の対応はまさに今の日本と同じだったらしいんです・・・全くサポートが無くて。・・・でもある瞬間から行政の理論が変わり、法律を変えはじめ、活性化を制度面から支えるよう時に大きくシフトしたらしいんです。
BS 日本は未だそうなっていませんね。
馬場 まだなっていない!そろそろ、動いてもいいんじゃないかと思いますけど。
石井 1つには、リノベーションやコンバージョンが地域経済にとっていかに大きな効果があるかということをはっきりしたカタチで見せることが出来ていない、という側面があるかもしれません。行政の対応を待つのではなく、行政が対応を変えなければいけないような状況を、むしろ我々の方がいかに作り出せるか・・・そういうことだと思います。
馬場 まさにそうですね。
BS Q.6 リノベーションする際に最も必要なモノは?    ア)物件 イ)竣工図 ウ)アイディア エ)予算 オ)その他
馬場 ア)とウ)
石井 ア)とウ)
BS Q.7 リノベーションは建築にメインストリームになるのか?
馬場 ならない。普通の行為をしても広がっていく。
石井 メインストリームそのものがなくなる。
BS Q.8 リノベーションって何でしょうか?
馬場 「住む」という行為や「家」「住居」に対して力を抜いてゆくこと。
石井 インタラティブ/ユビキタス
BS Q.8に対する石井さんの解答は少し難しいかも......
石井 時間切れで変な解答をしてしまいました(笑)。つまり、住宅の大量生産・大量供給のシステムでは短期間に「売り切る」「貸し切る」という理論が当然だし、その理論でつくられる大量単品種の住宅が「新築絶望派」を生み出しているというのも当然でしょう。この理論の中で、住まい手の個性を家に反映させることはとても難しい。「だったら、新築でやる必要ないじゃない」というのが、僕の考えるリノベーションです。ブルースタジオの個人のお客さんの多くは「古い物件に住みたい」ということよりも、「ただ、自分の好きに住みたいんだ!」ということでご相談に来る。この方向性は非常にはっきりしています。
BS 馬場さんの解答はちょっと詩的ですね。
馬場 住空間に関する感覚が歴史的に変わっている瞬間なんではないか、そういうことも感じます。我々の親の世代では「家」って神聖なものだったし究極の夢だったけれど、我々の世代では「家は道具」じゃないですか。親の世代が家を買って一生の借金に苦しんでるのを見て育ったせいかもしれませんが、「家」ともっとカジュアルにつきあっていってもいいんじゃないかと思うし、その思想の流れの中でリノベーションが表出してきているんじゃないかと捉えているんです。
BS この部屋をリノベーションしてください。
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Q.9の即日課題(スケルトン) この即日課題を、いろんな建築家に取り組んでもらうのって「リノベ展」でコンテンツに出来そうですね。
馬場 あ!それ、おもしろそう。「ワンルームゲーム!」ですね。いろんな建築家にやってみたいですね、このゲーム。でも10分以上考えさせたらダメですね。3分とか。そのほうが、反射的にかくから、その人のプランに対しての本質が見えてくる。心理ゲームみたい。
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馬場氏の回答
BS あと、漫画家とかいろんなデザイナーにもやってほしい......
馬場 いい~。以前雑誌で「9坪ハウス」の企画がありましたけど、漫画家はスケールアウトしてるんですよ・・・当然かもしれないけど。こんなに人間ちっちゃいのかよ~とか。これは入らないよ~とか。
石井 それは面白いですね。でも、それはわれわれの設計の中でもあるかもしれない......。設計のテクニック上、わざとスケール感覚を狂わせるようなこともしますね。例えば、中に入って奥が見えないんだけれども、行くと広いとか......そういう試みですね。
BS 馬場さんの部屋は、「ドッグラン」ですよね!?
馬場 そう!真ん中にボリュームがあって、そこに寝る!周りを走る!みたいな趣味の。ワンルームだったら、「趣味に走った究極の家」があってもいいかも知れない。犬を飼うためだけの家(=犬小屋?)「だけどたまに僕も寝ていいかな~」とか。
green.jpgiw33_11.jpg石井氏の回答

本当に「リノベ展」が出来るまで、この種の打合せは回を重ねられることでしょう。その度ごとにいろんな家のアイデアが出てきそうですが、HOLIC HOUSEのようにそのアイデアを是非実現していきたいものです。

2004年11月29日 「仮想リノベ展」会場予定:都内Xビル/Holic Houseにて
インタビュアー:泥谷英明(ブルースタジオ)
撮影:武井良介

馬場正尊×石井健

Masataka BABA×Takeshi ISHII

<馬場正尊>
1968年佐賀県生まれ。
1994年早稲田大学大学院建築学科修了。
2001年同大学建築学専攻博士課程満期退学。
94~2001年6月博報堂にて「世界都市博覧会」「東京モーターショー」などの都市計画、事業計画に携わる。現在、雑誌『A』編集長を経て、2002年 Open A Ltd設立し設計、編集、都市計画などを行う。


<石井健>
株式会社ブルースタジオ 執行役員





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