blue studioトップページ > Magazine > INTERVIEW > No.34 <建築家の味つけ> 清水勝広 / Katsuhiro Shimizu
INTERVIEW No.34
清水勝広 / Katsuhiro Shimizu
ジャンルを超えて精力的にコラボレーションをする若手建築家・清水勝広氏。氏に進行中のプロジェクトから竣工直後の住宅、過去手掛けた店舗、制作スタイルについてお話を伺った。
ブルースタジオ(以下BS) 清水勝広(以下KS)
設計の手法
BS | まず最初に清水事務所ではどのように住宅の設計を進めるのでしょうか? |
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KS | クライアントに会ってはじめに行うのはヒアリングな訳ですが、心がけているのは、どんなことでも聞き入れる体制でコミュニケーションを図ることですね。「無茶でも無理でも言ってください。細かいことでも、家に関係ないようなことでも何でもいいから。」というスタンスで望み、気兼ねなく相談できる関係を築くことを大切にしています。言葉の微妙なニュアンスの裏に隠れているその人の生活像や人柄をつかむことも、同時に大切にしています。掘り進めていくと要望の中には矛盾することもたまに出てくる。そんなときは、その人の生活においてどの選択が一番よいかを考えていきます。 |
BS | お施主さんとのコミュニケーションはずーっと続きますよね。最初のヒアリングで大きな方向性やコンセプトをつかみ、またお客さんのイメージをつかんだり諸処の問題を掘り下げる。 |
KS |
問題を見つけるというか、その人の生活の中でキーになるなという事柄を見つけてそれをどう展開させるか。または、優先順位をどう設定するかと言った感じでしょうか。ヒアリングが終わると、事務所に持ち帰ってスタディーに入るわけですが、法規や敷地の特性、クライアントの要望をパズルを解くように答えを出そうと思えば、およそ、それらしい解答はすぐにでるんです。けど、別の解答もあるはずだということで、何通りも別の案を組み立てて見ます。ファーストインプレッションで出た案をそのまま通さずに、一度広げられるだけ頭をグニャグニャにして可能性の幅を広げてみます。スタッフを含め、事務所内でモデルをたくさんつくり、可能な限り別の案を模索した中でこれが一番ベストだ!という風に決めますね。 |
BS | 店舗の場合と住宅の場合はまた違うと思うのですが。 |
KS | 店舗の場合もクライアントとのコミュニケーションを大事にすることに変わりはありませんが、プレゼン重視というか、こちらのやってみたいことをボンっとぶつけて「それ気に入った!/気に入らない!」で決まっていくことが多いような気がします。長く住み続ける住宅と、営利が目的の一つにある店舗とでは、作り出す空間自体に期待されていること自体が違うことが多く、必然的に設計する上でのねらいや、効果も違ってきます。そんな視点から考えると、オフィスデザインは居場所としてホームの要素と、イメージとしてPRの要素を持ち得ていて、おもしろいですね。 |
デザインの中の普遍性
BS | 設計/コンセプトの中で特に大事にしているもの。例えば光や風、敷地や周囲との関係性など、特に気にしていることはありますか? |
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KS | 特定のものはないですね。でもどこかで自分のつくるものに「普遍性」を求めているかもしれない。社会を取り巻く複雑で雑多な状況を、建築という道具を使って明快に整理してみせる、そんな解答。どんな人からみても「あーわかるわかる」とか「ぴたっときてる」というような普遍性。そんな内容が自分の作るものに備わっていればいいな、と思ってます。けど、はじめから普遍性を詩って相手に自分の考え方を押し付けたくないですね。だから日々行っているデザインワークではクライアントやその敷地などの諸条件ごとに個別の解答を出そうと心がけています。 |
BS | 清水さんの中においての普遍性ではなく、みんなが共有できる普遍性。でもそれはプロトタイプをつくるということではないですよね? |
KS | 個別性を削ぎ落としてタイプ化することに興味がないわけではないですが、そのような仕事は今までにないですね。「その人独特のライフスタイル」もしくは「その人と自分との間で共有し得た価値観」といった特殊性、個別性が大事だったりします。店舗でも住宅でも、クライアントと過ごす時間を楽しもうと思うと、自然とそうなってます。 |
BS | 店舗ではどうですか?オーナーさんが企業であったり個人であったり状況も様々だと思いますが、住宅とは違う大事にしている点はありますか? |
KS | 個人オーナーの店舗は住宅を作る時と似ているかもしれない。だけど、あるブランドイメージが確立されている企業の店舗をやる時は、そのブランドの指向性を理解した上で提案するよう強く心掛ける気がしますね。ある店舗内装のオファーがあった時それを強く感じたのですが、そのブランドは美容業界で30年の老舗で、ヘアサロン特有の内装専門知識は、とうてい太刀打ちできないほど独自のノウハウを積んでいらして、ただ、何か新鮮さが欲しくて時代時代にあわせて色々な建築家・デザイナーたちに依頼している。この時は今までのそのブランドの変遷を意識する必要がありましたね。 |
BS |
確たるブランドコンセプトがあるがゆえに頼んでいるのかもしれないですね。そういったケースの場合、過去のものをみたり、、、? |
KS | 毎回の打ち合わせがプレゼンテーションの場でもあり、過去の変遷と企業理念についてコミュニケーションする場でもありました。一方、明らかに企業イメージを変えようという場合は、その場所、敷地にあって不自然でないものをつくることに気をつけているように思います。 |
BS | その場合、建築を通してのC.I.(コーポレーション・アイデンティティ)ですよね。 |
KS | そうですね。あるアパレル店舗のケースですが、今まで百貨店で展開していたブランドが初の路面店をつくるということで、ある意味、今までの志向を変えたいというオーダーがありました。その時は既存のイメージや、変遷を意識することなく、率直にブランドの服を見せてもらって、雰囲気と空気間をつかんで提案をしました。 |
建築家=ホワイトカラー?
BS |
ところで清水さんは大学を卒業してすぐ、誰にも師事せず設計を始めたのですか? |
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KS | 大学を卒業してすぐ小さな店舗の内装をやることになって、現役の学生にも手伝ってもらいながら自分たちでトンカチとのこぎりを持ってバーをつくりました。今思えばそのころの自分は何でも屋でしたね。自分の知りうる建築家像というのが、職能を色で分けたとき、ホワイトカラーに属すると思ったわけですが、"今の自分に出来ること"を考えたらホワイトもブルーも関係なく、やれることはなんでもやってみたいなと思っていました。 |
BS | 施工もやっていたんですか?? |
KS | 素材と格闘してました!デザインした後、積算して、材料発注して、荷受け人になって朝早くから伝票をチェックして、木割図を描いて「なんか余りがいっぱいでるなぁ」なんて言いながら作業していました。慣れてくると「結構いい板取りになってごみが減ったなー」とか(笑)。予算の制約が大きい案件が多く、工夫で減らせる物は何でも!ということで運送費を減らす為に使う材料の種類を絞って絞ってどこまでつくれるかという挑戦をしたり。この頃は「セルフビルドでやるんだ!」とか言って、、、当時は仲間7人くらいでユニットを組んでました。スキーマ建築計画の(長坂)常くんも一緒にやってましたよ。 |
BS | プロダクトもされていますが、境界は全くないんですね。 |
KS | 無しでやりたいですよね!規模や予算が大きいから意思を伝える力があるんじゃないか、とは思いません。どんなものでも工夫があり、意思がこもっていればそれは発信できるものだと思うので、そうした境界は出来るだけつくりたくないですね。 |
建築家の味つけ
BS |
最近は新築の住宅を設計されていましたが。 |
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KS | はじめての新築だったんです。その時構造設計者の方とのコラボレーションをしていて面白いなあと思ったのは、仕上げを含まない状態の構造図って理路整然としたシステマチックなものじゃないですか。僕がやっていることはそれに貼りつけ物をしたり光を加えたり、設備や収まり上の都合でどんどん変更が加わっていく。。初期の構造図は「リノベーションの既存状態」みたいだなあと思いました。 |
BS | 新築の場合プランやエレベーションはこちらで示すけど、構造屋さんに仮定断面を出してもらったりするとそこである種の方向性は決まっちゃいますね。そう捉えると確かに改修工事特有の「原則変えられない条件」みたいなものと同じような見方はできますね。 |
KS | 構造設計者の最初に出すかたちはすごく美しいかたちだと思うのです。詳細を詰める前の意匠と構造が合致したピュアな表現。そのピュアなものをちょっとずついじらしてね、みたいな(笑)。 |
BS | リノベーションについてはどう思われますか? |
KS |
時代の宿命としてやらなければならない、または、今、やりがいのあることとして興味があります。つくる時のおもしろさが、新築/インテリア/リノベーションとジャンルを分けることで何か生まれると思ったことがないので、リノベーションが特別な存在だと言う認識はあまりないです。なにか違いはあるのかなぁ?あまり深く考えたことはないですね。 |
BS | 建築するという行為、またはものをつくるという行為の中の方法のひとつ...... |
KS | 新築でも改修でも、空間をつくる/場を作る/スペースをいじるということですよね。例えばこの逗子の新築の場合でも、もともと敷地があり擁壁あり段差がありこの状態からスタートです。さらに構造設計の方との打ち合わせの中で骨組みができた段階でまた再スタートというか、僕が「味つけし直す」みたいな感じでした。こういったことも広義でリノベーションと言うのならば、一つのジャンルをくくる言葉でしかないのかなと思います。 |
コラボレーションという行為
BS | 清水さんはブルースタジオでも設計をされていますが、コラボレーションについてはどうお考えですか? |
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KS | コラボレーションは大切にしています。自分のオフィスを持つまではユニットを組んだり、共同アトリエに居たりしたので、同じ職種の方とのコラボレーションは経験があります。今は「異業種間コラボレーション」に興味があります。決して目新しいことではないと思うのですが、そうした環境って様々な角度から、意見やメスが入り、デザインに幅と奥行きが出ると思うんです。 |
BS | お話を聞いていると「専門家でないようにしている」というか「建築に特化をしない」というか、、、建築をやる以上建築の思想・技術・手法などは絶対必要なんですけど、ものをつくるという行為としてゆるーく考えていくと「専門家足り得ない」「カテゴリーに納まらない」というのは大事ですよね。気持ち的に。 |
KS | しむけているところはあるかもしれないですね(笑)。意識はしてないけれど。今進んでいる案件としては広告企画が専門の方と、広告空間としてのスペースデザインプロジェクトがあったり、医療企画開発の方と、医療の目から見たライフデザインプロジェクトなどがあります。 |
BS | 清水さんは単純に新しいものが好きというのではなく、自分が知りえない感覚やひとりだったら生まれないものなどに興味があるのでしょうか? |
KS | そうですね。なるべく好奇心の矛先を狭くするような縛りを自分自身に設けたくないですね。常にオープンスタイルで、、自分の意志が強くこもった物が完成したときもすごく嬉しいのですが、仕事やプロジェクトを通して参加した人と創出し、共有できる価値観は一生の財産と言っても過言でありません!!コラボレーションするということは、相手を尊重してその人の意見を聞き入れる自分の器を育てることでもあると思っています。 |
BS | 建築業界は閉鎖的なところがありますよね...... |
KS | 確かにそうですね。旧態依然としているところからも閉鎖感は否めないですが、専業特化が悪しき方向を生んでいて、建築雑誌しか目を通さない学生さんが居たりします。建築は広く様々な社会で起きる出来事と、密接に関係し結びつけられる物事だと思うので、広くアンテナを張って置かないと、ひとつ建物をつくるにもコントロールが難しいと感じます。なにか新たな道を切り進むのにもいろいろな情報は必要ですよね。だからそういう意味では「自分の進む方向をわざと決めていない」という感じかもしれません。 |
BS | 今ワークショップをやる建築家も増えていますが、ワークショップやコラボレーションは様々な可能性を秘めているし、建築家の役割も一言では語れないようになっているのは、とてもよい傾向だと思うのですが。 |
KS | そうですね。価値観が多様化している時代だからこそ、ジャンルを越えて議論が出来る環境、なにか新しいことがそこから生まれる予感のする環境そのものを作ることが、建物というハードを作ること以外にも、興味と関心があることです。 |
インタビューの途中途中で、進行中のプロジェクトのスタディ模型を出してその変遷を語って下さった清水氏。進行中のプロジェクトや手掛けた作品について真剣に語る、柔軟な姿勢が垣間見れたインタビューでした。
photo:清水勝広建築工房提供
2005年1月22日 清水勝広建築工房にて
インタビュアー:大川 幸恵(blue studio)
撮影:永山 寛樹
清水勝広
Katsuhiro Shimizu
1974年 東京生まれ
1998年 東京藝術大学美術学部建築学科卒業
同年ドミトリー・アーキテクツ結成参加
2002年 一級建築士事務所 清水勝広建築工房開設
共同アトリエ DIVE に在籍
2003年 有限会社 清水勝広建築工房設立
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