blue studioトップページ > Magazine > INTERVIEW > No.36 <捨てる事で得る生活〜鎌倉> 斉藤英典 / Hidenori Saito
INTERVIEW No.36
斉藤英典 / Hidenori Saito
日本三大古都のひとつ「鎌倉」に住まう秘訣を、生粋の「鎌倉っ子」にインタビュー。
ブルースタジオ(以下BS) 斉藤英典(以下HS)
BS | そもそも齊藤さんが鎌倉で不動産コンサルティングをやろうと思った理由はなんだったのですか。 |
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HS |
私はもともとRIA(Research Institute of Architecture)にいて、主に商業地域の再開発に携わっていました。そこでの仕事は、国からの補助金を使って、市街地全体から見るとごく狭い範囲の商業地域に数百億というお金を投入するというものでした。都市計画図をみれば分かりますが、通常の市町村では住宅地が市域面積の大半を占めているのに、そちらには公的な資金が入らず、よって我が国では住環境が豊にならない・・。おかしな話ですよね。:笑 独立してしばらくして、鎌倉や逗子のいたるところでマンション開発の問題が持ち上がりました。5階建て程度のものでも鎌倉の町にとってはとっても大きなものなんです。もちろん旧市街の人たちは猛烈に反対しましたね。でも都市計画法や宅地造成法は、全国一律の法律だから結果的に建っちゃうんですよ。そこで思ったことは、鎌倉に見合った良い住宅地開発というのを出来ないものかな、と。そしてそのためにも鎌倉に合ったルールづくりや不動産事業の提案が必要なんじゃないかと。・・今に至る・・という感じでしょうか?笑
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BS | そうですね。全国一律の条例や法律は問題ですね。では、鎌倉とはご自身にとってどんな街ですか? |
HS |
鎌倉市は人口17万人もいない小さな市ですが、僕のとっては小さな町とか村という感覚ですね。だから自然と人のバランスとてもよくて、生活する上では理想に近いところだと思いますよ。 |
BS | その鎌倉の魅力を維持するために、様々な保存活動が過去あったかと思うのですが、どういった活動があったのでしょうか。また、その活動についてどのようにお考えですか。 |
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HS | 我が国の古都を守るための規制誘導方策として古都保存法があります。この法律は当時、ブルドーザーの前に寝転んで開発を阻止した市民の活動が原因で立法されたと聞いています。三大緑地にしても一坪地主運動的な発想で緑地を保全しています。こうした活動は一般社会からは「反対運動」としてあまり良い評価を得てはいません。しかし、そうまでしても守らなければならないものが鎌倉にはあるんだということを、むしろ専門家側が認識すべきでしょう。専門家はこうしたちょっと過激な市民の活動を、簡単に否定する前に、そういう状況で制度を放置している自身の無力を反省すべきなのではないでしょうか? |
BS | なるほど。そこに住む人の思いが大切ですよね。私自身イギリスに住んでいた時期があったのですけど、地域によっては、自分の家のドアの色を変えることすら出来ないところもありましたし。裏庭の木の上に子供が作ったツリーハウスを役所が開発行為だとして壊しに来たり。(笑)時には行き過ぎの感がありますが、守ろうとする意識が高かったですね。 |
HS | なるほど。鎌倉は日本が世界に誇れる観光地の一つだし、外国人も沢山やってくる。だからそういった意識が大切かもしれませんね。 |
BS | 観光地といえば、私住んでいたブライトンという町について聞かれたときはよく鎌倉みたいな町と答えてます。ロンドンから電車で1時間くらい。海があって、自然があって、旧市街と新市街があって。実はロンドンってあまり好きじゃなくて、週末訪れるには楽しいのですが、あまり住みたいと思えなかった。それにくらべてブライトンは、街全体がヒューマンスケールで出来ているんです。 |
HS | BSさんの感性は鋭いですね! ブライトンは鎌倉を含めた湘南エリアが海水浴場として整備されていくモデルになった都市ですよね(*)。鎌倉とブライトンの共通点ってそのヒューマンスケールという言葉がぴったりだと思いますよ。 *明治4年に岩倉使節団がブライトンを見学、後に参加者の多くが湘南エリアに別荘を建設 |
BS |
その観光地としての鎌倉が抱える問題点を挙げるとしたら何でしょうか。 |
HS | 年間約2000万人弱の観光客がやってくるので、言い方は悪いけれど、景気さえ良ければ鎌倉の商人はたいして努力しなくても食べてこられた。だから町としてお客様を迎えるという姿勢が出来ていない。「いらっしゃいませ」って言わない喫茶店なんて、鎌倉でしか見られないんじゃないかな?:笑 だから地元の人は絶対行かないし、リピーターもない。小町通り等は外から来たお店に取って代わられてしまって、昔からあるお店はどんどん減ってるんじゃないかな。 |
BS | そうですね、心当たりがあります(笑)。ところで、実は鎌倉に移住したいと思っていながら、でもなかなか実行に移せない人が沢山いると思うのですが、移住するにあたって大切なことは何だと思いますか。何か提案があれば併せてお話し下さい。 |
HS | 僕はね、捨てることだと思いますよ。東京にあって鎌倉にないものは沢山あるし、虫もよく出る。でもその虫が毒をもっているのか、見た目気持ち悪いだけなのか知っておくことはとても重要。 鎌倉に住むと、そういうことが自然と備わってくる(否応なく必要に駆られて:笑)。だから、ヒューマンスケールという言葉がぴったりなんだと思うけど、そういったことに立ち戻ることができるのが鎌倉だと思う。 東京では駅徒歩5分・10分以内ってよく言うけど、僕らからするとその感覚はおかしい。鎌倉の徒歩圏内は20分。そういう感覚があれば、これ以上地下鉄なんて要らないし余分なものを捨てて、本当に人間にとって必要なものを求めるということが出来ると思いますよ。健康にもいい。 それに地価だって鎌倉は高いと思われているが、実はそうでもない。坪50万なんてざらにあるし・・例えば5500万円以上の予算があれば、都内ではマンションだけど鎌倉ではアース・デザインのオートクチュールタイプの業務委託契約 http://www.earth-d.jp/consulting/ で、建築家仕様の戸建てが買えちゃう。賃貸を選択する人も予算が許すのなら、生涯に支払う費用を一度計算することをお勧めしますね。資産としての優劣は、「区分所有権型の資産<所有権型の資産」というのは明白だから・・。 |
BS |
なるほど。「捨てること」という言葉にはとても共感を覚えます。ブルースタジオが設計に携わる際も、いかに無駄な装飾や機能といったものを捨てるか、もしくは削ぎ落とすかということを大切にしていますし、お客様にも共感いただいています。そういった意味ではブルースタジオのお客は鎌倉ライフに向いているのかもしれませんね。
本日はお忙しい中、貴重なお話ありがとうございました。
最後に、実際にいまアースデザインさんで扱っている物件をご紹介いただけますか。
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HS | ウェブサイトにも掲載しているのですが、鎌倉から134号線を逗子に向かい葉山町に入ったところに仙光院があるのですが、その裏に一軒家があります。母屋の横には石原慎太郎が「太陽の季節」の執筆を開始した蔵があり、現在売り出されているのはその蔵の部分と、樹齢200年のケヤキを保有する部分です。アースデザインではその蔵のリノベーション案もあわせて提案しています。ここは、逗子駅までバス15分程度(鎌倉で悪名高い渋滞はほとんどない)で、逗子からは横須賀線で品川まで50分程度。十分通勤圏内ですよ。 料亭を思わせる入口をみて、ここが不動産屋と想像できる人が何人いるのだろうとお節介なことを考えていたら、現れた齊藤氏もリラックスした風貌。しかしその静かな語り口には鎌倉を思う気持ちが垣間見れた。鎌倉ライフを体現している氏を頼ってお客が集まってくるのも頷けた。 |
斉藤英典
Hidenori Saito
平成2年 株式会社アール・アイ・エー入社
平成12年 有限会社アース・デザイン設立・代表
平成13年 関東学院大学 客員講師
平成13年 中欧へ街並み研究調査のため渡欧、
現地行政担当官と面談(Wien・Budapest・Praha)
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