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INTERVIEW No.41


アイデアを生み出す
ポジティブなパワー

徳田祐司 / Yuji Tokuda

「ポジティブなコミュニケーションデザイン」をテーマに、素晴らしいデザインを世に送り出し続けている株式会社カナリアの徳田祐司さん。ブルースタジオが手掛けた『モーフ南青山』にオフィスを構えています。この気持ちの良いオフィスで、徳田さんの発想の源について伺いました。

ブルースタジオ(以下BS) 徳田祐司(以下徳田)

入居のきっかけ

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BS モーフ南青山に入居したきっかけを教えていただけますか?
徳田 ここは後輩の紹介で知りました。ウェブサイトを見てすぐに連絡をし、次の日に見に行きました。
BS それは独立する時ですか?
徳田 独立する前です。この部屋を見て独立を決めたようなものです(笑)。一番気に入ったのは、この窓からの景色。最初に内見をしたのは2月で、緑は茂っていませんでしたが、木々の緑が生い茂った写真を見せてもらい、「これだ!」と。
BS 最初から青山付近で探していたのですか?
徳田 いえ、場所に特別なこだわりはなく、空間ありきで決めました。気持ちよさ重視です(笑)。部屋に入った瞬間、明るい気持ちになること。その要素が、この眺望であったり、日当たりの良さであったり、デザインだったりするのですが。物件を探す時は、たいてい一発で決めますね。自分の居場所、生活が見えてくるんです。ここは、屋上も気持ちいいんですよね。毎年神宮の花火の時は、友人知人を呼んで楽しんでいます。手前にマンションができてからは半分しか見えなくなりましたが(笑)。

考える部屋とつくる部屋


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BS ここは大きな部屋が左右対称に2つありますが、徳田さんは「考える部屋」と「つくる部屋」にしているそうですね。
徳田 そうです。考える部屋はみんなでディスカッションしたりする部屋。自然の中にいるというコンセプトで、芝生のようなラグを置いたり、椅子のファブリックに緑を使ったりしています。みんなの意見が違うように、椅子の色も微妙に違う4種類の緑色を使っています。
BS カナリアのテーマカラーは黄色ですよね。
徳田 はい。黄色と金色もです。カナリアは和名で「金糸雀」と書くんです。でも、カナリアだから黄色でコーディネートするということはせず、外の緑が内側にも続いているようなイメージで緑を使いました。2つの部屋を行き来すると気持ちの切り替えができて、アイデアに変化が生まれます。
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BS ここに入居されてから、考え方やモノのつくり方に変化はありましたか?
徳田 変化があったというより、むしろ変えるためにここに決めました。デザインは考えることとつくることが同時に行われなければいけないと考えているので、それをできるだけ近付けたいと思っていました。 独立する時、普通は小さい規模から始めるけれども、僕は"成功したイメージ"から始めたかった。一人では広すぎるけれども、そこに色々な人が遊びに来てくれて、色々なアイデアが生まれて、というイメージ。その時に、このような素晴らしい眺望があると気持ちよく打合せができます。
BS コミュニケーションをとても大切にされていますが、何かを生み出すときもコミュニケーションを大切にしていますか?
徳田 もちろん仕事を進めるときもコミュニケーションが大切ですが、クオリティを高めるためにも、お互いが気持ちよく意見を言い合える環境を作っていくことが大切だと思います。良いモノが出来てもなぜか心が喜ばない時は、人とのコミュニケーションがうまくいかなかったときです。仕事の成功も、つくり上げるモノも、人と人とのコミュニケーション次第だと思います。
BS このモーフ南青山は、関わっている人同士がコミュニケーションを密に行い、施主も設計者も施工者もみんなが同じ方向を向いて進めることができたプロジェクトで、気持ち良く仕事をすることができました。その上、入居者の方も素晴らしい方ばかりで本当に嬉しい限りです。
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楽しんで仕事をすること

BS いい仕事をするための働き方のポイントはありますか?
徳田 楽しむことですね。与えられた条件の中でいかにいいモノをつくるか。条件やルールがあると、逆に楽しくなると思うんです。誰かと協力して行う時も、その人の能力を知り、力を発揮してもらう。前向きな人が集まると前向きな議論ができます。気持ちよく面白いモノができるようになると、きっと人はそこから逃げないですし。全力でやることですね。 それと、仕事には必ず「やるべきこと」と「やりたいこと」を同時に達成するようにしています。広告の仕事をしているので広告を作ることは当然「やるべきこと」ですが、そこで自分の「やりたいこと」を達成しないと相手に届くものが生まれない。自分のやりたいことも、クライアントと共有して、できればそれを見る人とも共有したい。そうすると、他人ごとではなく、自分ごとになります。僕は嫌な仕事ほど死に物狂いで取り組みます。断ることは簡単ですが、逆に断られるくらいの熱意でやると、愛情も沸くし、まわりの人も動いていく。そうすると嫌な仕事でなくなってきます。
BS 「retired weapon」や「see you again!」などのプロジェクトもされていますが、それらはやはり「やるべきこと」であり「やりたいこと」でもあるのですか?
徳田 「やりたいこと」の比重が高いです。誰かに依頼されるのではなく、自分がやらなきゃいけないというか。今までいい仕事を沢山させてもらい、経験も身に付けてきたので、それらを世の中に還元していくことが責務だと思っています。自分のやり方で、「やりたいこと」と「やるべきこと」を見失わないようにしながら、自分なりの形でアピールできたらいいなと思い、始めました。
BS プレゼンテーションする時、「これをやりましょう」という想いを伝える工夫はありますか?
徳田 特別なテクニックはありませんが、カナリアの場合、プレゼンテーションでは僕らのアイデアを買って頂くということなので、クライアントにとってどんなメリッ トがあるのかは必ず提案します。これは僕だけでなく、基本中の基本ですが。それと、例えばこういう質問がきたらこう答えましょうとか、陰で見えないところもしっかり考えてあげると信用も生まれます。さらに、できれば感動してもらいたい。僕はプレゼンで3回くらいクライアントを泣かせたことがあります (笑)。喜んでもらえる、その最上級の結果は感動をもたらすということ。初めてのプレゼンでも信頼が生まれ、言いたい事を言えるようになります。相手を楽しい気分にしたいと常に思っていますね。
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BS 広告業界の人はみんなポジティブでロマンチストですよね。
徳田 そうかもしれません。1人や2人の相手を想うだけでも色々考えるのに、みんなの願いや想いをかなえようと思うと相当ロマンチックでないとできないと思います(笑)。

アイディアのきっかけ

BS 世の中を色々な目で見ていないと新しい発想は生まれないと思いますが、よく観察したりしていますか?
徳田 観察力はあるのでしょうね。街で芸能人をよく見つけますし(笑)。人の顔や広告物、自然の現象など、様々なことを点でキャッチしていますね。
BS それは無意識にですか?
徳田 無意識でしょうね。そういった情報をインプットするスピード感や記憶力を磨くのは比較的簡単です。でも、それだけではアイデアは生まれなくて、それは知識でしかない。それを知恵に変えるためには、自分なりの情報の引き出し方や組み合わせ方を磨く必要があります。自分の琴線に触れたモノは、何かの信号を発している。それを言語化し、アイディアを引き出す。こういうモノをつくってこういう風に感じてほしいんだよねっていうのをデザインに落とし込む。デザインが音楽や映像のようになってくるという感じです。
BS それは経験によるものですか?
徳田 デザインはセンスも技術も比較的早く身につくものだと思います。2~3年くらいでデザインとは何たるものかが感覚でわかってくると、早いうちから開花したりします。けれど、デザインは良くも悪くも表層的なものです。その下に隠れているメッセージをどこまでつかみ、どこまで引き出してこれるかとなると、人としての経験や知見が影響してくると思います。それを教えてもらったのはオランダで仕事をしていた時でした。彼らの仕事はすべて本質的でした。
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BS それはその会社がそうだったのか、ヨーロッパの文化がそうなのか、どちらなのでしょうか?
徳田 半分はその会社がそうだったというのもありますね。オランダという国は、他の国の人を招き入れるというのが得意な国です。その雰囲気が僕のいた会社にもありました。技術や方法論にとらわれないで、どんどん意見を出し合う。そして、やろうとしていることのコンセプトや社会に対するメッセージについて、本質的な議論ができる。元々そういう風に考えていきたいと思っていました。

川下から川上へ

徳田 何かをつくるとき、デザインはどうしてもプロセスの川下の方にいます。色々なものが決まってようやくデザインが動き出します。でもデザイナーとして社会にコミットするためには、もっと川上から取り組んで、良い意味でもっと口出ししていきたいと思っています。そうすれば、デザインがやろうとしていることの意味も変わってくると思います。
BS そのようなアプローチは、やはり独立するとやり易くなりましたか?
徳田 そうでしょうね。自分は型にはまっていないし、仕事を依頼しに来る人も型にはめてこないので。
BS 社会に対して感じてる点や問題点はどのように見つけるのですか?
徳田 まずは"点"で見るのですが、それを"面"にしていきます。小さな"点"の現象をつなげて、大きな何かを感じ取ったりします。例えば以前ロンドンに行ったとき、老人がすごく楽しそうに見えました。後で聞くと、介護や年金など社会の仕組みがしっかりしていたからだったんです。それを"点"で見ていたんですね。

場の持つ力

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徳田 オランダから日本に帰ってきた時に感じたのは、日本の建築はプレハブ文化だということです。新しいことが良いと考える価値観がある。日本の街って美しくない なって思っていたんですが、実はそれが日本の風景なんだって。障子を年に1度貼り替えるとか、古くなった畳を替えるとか。古き良きものというのは本当は日 本の文化じゃないんじゃないかって。 ヨーロッパは古い建物がたくさん残っていますが、そうなると否が応でも残すことに対して「いい」って言わないといけない。日本は全然そんなことないと思うんです。建築もどんどん新しくなっていきますし。そんな面白い国はなかなかないですよ。
BS モーフ南青山の建物を最初に見た時、とても強い場の力を感じました。新築でこれ以上のものをつくるのは難しいと思います。古ければ場の力が強いというものでもないと思いますが。
徳田 この辺りは表参道と西麻布の間でエアポケットのような地域ですが、最近周辺に優秀な友人達が集まってきたんです。そうやって点が集まって面となり、「モーフ南青山」をキーステーションとして、磁場が生まれたら面白いと思っています。昔のトキワ荘のように!
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2009年7月16日 モーフ南青山にて
インタビュアー:小川裕紀(blue studio)  撮影:岩田啓治(blue studio)

徳田祐司

Yuji Tokuda

1990年(株)電通入社。 数多くの広告等を手掛ける。
2001年からKesselsKramer(オランダ)に勤務。
ドキュメンタリー映画『The Other Final~世界最下位決定戦』等のプロジェクトに参画。
2003年電通コミュニケーションデザインセンターにもどる。
広告の枠にとらわれない独自のプロジェクトを企画制作する。
2007年6月コミュニケーションデザインカンパニー、カナリアを設立、現在に至る。

独自にpeace design project『retired weapons』も展開中。





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