“カイダン” コミュニティー
東京都昭島市、青梅線の「中神」駅より徒歩3分。畑の点在するのどかな風景の中に忽然と現れるシンメトリーで重厚感のある四角い建物。ブルースタジオが設計を担当し、2011年5月に完成した賃貸共同住宅『haramo Contatto』(以下、Contatto)だ。
4階建ての造りではあるが、エレベーターは見当たらない。各階の住戸に向かうのは、建物の中心をくり抜くように空に向かって真っ直ぐに伸びる大階段。その幅は最大で4mメートル、階段と言うよりもむしろ建物内のコートヤードのようだ。
「4階までの階段」と言われれば、普通は敬遠してしまう。『Contatto』は、このような一般的な「階段」のイメージを逆手にとり、「カイダンコミュニティー」をコンセプトに、「階段を生活の一部としてとことん楽しんでもらおう」という考えでデザインされている。大階段の途中には花やグリーンが植えられた踊り場があり、各住戸の玄関はその踊り場を挟んで顔を合わせるように並んでいる。階段の頂部には、180度に大空と多摩の山並みを望むテラス。庇が心地よい日陰をつくり、1本の金柑の木を囲むようにベンチが配されている。天気のよい日は、ここで本を片手にひと時を過ごす住人の姿もあるそうだ。
竣工から1年半が経った、22世帯の入居者が暮らす『Contatto』。住人たちは、この階段をどのように生活に取り入れて暮らしているのだろう。今回は、『Contatto』の設計を担当したブルースタジオのデザイナーであり、現在、家族と共にこの物件に入居している吉川英之に、その暮らしぶりを取材した。
自ら設計した建物に住まうということは、デザイナーにとって最高の喜びであると同時に、最高の学習の機会。吉川ファミリーはこの住宅をどのように住みこなしているのだろうか。