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INSIDE Vol.18


働くと暮らすの
程よいバランス

Vol.18

東京都杉並区『Colonia Galleria』 リノベーション オフィス
専有面積: 44.99㎡
職種: 生活雑貨製造会社勤務
趣味: ***

物件の決め手は、商店街の雑踏感

東京都杉並区「阿佐ヶ谷」は、JR中央線沿線のカウンターカルチャーの拠点としても知られる街。駅を縦断する中杉通りのケヤキ並木は、夏には涼しい木陰を、秋には黄金色のトンネルをつくる。中杉通りと並行する商店街、阿佐ヶ谷パールセンターは今も活気が健在。約700mに240余りの商店が並び、毎年8月に行われる七夕祭りは地域の夏の風物詩となっている。

阿佐ヶ谷パールセンターのちょうど中間あたりにある路面にスーパーが入った築40年の5階建ての建物。それが、今回紹介する『Colonia Galleria』(コロニアガレリア)だ。クリエイターのための5つのラボ(専有部)と入居者に24時間開放される1つのギャラリー(共用部)とで構成されている。

このラボの1つに入居しているのが、インテリアファブリックや生活雑貨の製造販売を行う株式会社ノーム。福岡に本社を構える同社の東京オフィスとしてここを借りている。

「東京の物件を探していた時に、『リノベーション』というキーワードでブルースタジオのWebサイトを見つけて、ここで決めようと思ったんです。福岡から東京に出てきて何十件も物件を見る時間がなかったということもありますが、不動産は出会いだと思うので、直感で」。そう話すのは、ノームの東京オフィスを取り仕切る市川さん。ブルースタジオのWebサイトの中から、北参道、白金、阿佐ヶ谷とエリアを絞らずに3物件を内見し、最終的に阿佐ヶ谷の『Colonia Galleria』に決めた。

「物件の決め手は、この商店街の雑踏感。僕らはオフィスにいる時間が長いのですが、一歩外に出れば、すぐそこに人の生活がある。商店街に入った瞬間に、フッとリセットできるんです。私たちのオフィスを訪れる人にもこのコントラストを演出できるなと思いました」

“仕事なれど生活”と話す市川さん。阿佐ヶ谷の商店街で働くということは、その2つが同居しているような感覚だ。仕事と生活を行き来することで、緊張感とリラックスの程よいバランスで働くことができる。

何もないからこその自由

ノームが入居するラボは、余分なものが一切ない約45平米の空間だ。仕上材を取り払い、梁や配管がむき出しの天井や壁。フレンチパインのフローリングを敷き詰めた床。キッチンやトイレはギャラリーにあり他の入居者と共用のため、ラボには水周りも省かれている。

「元々、棚がビルトインされたような既成の部屋に納まるというよりも、自分たちで空間をつくり上げるという発想を持っていたんです。この部屋はトイレも水道すらもない、本当にハコのような空間なので、捉われるものもなくどこに何を置くか自由に考えることができました。初めてこの物件を見たときに、こうしたいというイメージがパッと湧きました」。

東京にある生活雑貨関連のお店にオリジナルの商品を卸しているノームの東京オフィスでは、ラボの手前を来客スペース、バルコニーに近い奥側をワークスペースとし、市川さんともう1名で切り盛りしている。入り口のドアを開けると、ディスプレイされた色とりどりのファブリック商品が目に入る。コンクリートや木の素材感を生かした素朴な空間の中で、リズミカルに配されたカラフルな色に心が踊る。

『Colonia Galleria』の別のラボに建築設計事務所を構えるタトデザイン株式会社の大山さんは、夏場に開け放してあったノームの入り口からその空間を目にした。そのことがきっかけで市川さんに声をかけ、知り合いになったそうだ。「僕たちが飾っているものに、なにか響いてくれたようで。声をかけてくださったんです」。

クライアントだけでなく、ここを訪れる人すべてがお客様だと話す市川さん。どんな空間で過ごすかによって、そこで話す内容や人との関係も変わってくる。出会いのきっかけも生まれる。そんなことに気付かされるオフィスだ。

余白のある空間と時間のなかで働く

「東京にオフィスを置く前もお客様の9割は東京だったので、毎週と言っていいくらい出張で東京に来ていました。その時は、時間を効率的に使うため、事前にアポイントをとってガチガチに予定を組まなければならない不便さがありましたが、東京に拠点をもって、時間の使い方が変わりましたね。仕事の選り分けができるということもありますが、ダラダラと、よく言えば自分のペースで働くことができるようになりました」。

“無駄が好き”と話す市川さん。スケジュールに少しの隙間があれば、無理に埋めようとせず、コーヒーを飲んで一息ついたっていい。そんな緩さがきっと人には心地よい。そのようなマインドは、生活者の心が豊かになるような商品をつくるノームの仕事にも繋がっているのだろう。

古い建物にはたくさんの想像の余地がある。「ここには一体どんな人が暮らしていたんだろう?」「3Fのビリヤード場は一体いつから?」「建物が建った頃の商店街にはどんなお店が並んでいたんだろう?」。建物がたどってきた時間に思いを馳せながら。経年ゆえの味わいに心地よさを感じながら。市川さんは、阿佐ヶ谷の『Colonia Galleria』のラボを拠点に、余白のある空間と時間のなかで働いている。

「この地域のコミュニティーで僕らも生活している。2年間ここで働いた今、胸を張って『阿佐ヶ谷っていいところですよ!』って言えるようになりました」

2011年3月25日『Colonia Galleria』にて
撮影:藤沢百合 取材・文:和田亜弓(共にblue studio)

今回の入居物件のご紹介

東京都杉並区『Colonia Galleria』
専有面積:44.99平米
竣工年:1970年5月築
リノベーション完了:2009年3月





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