これまでに体験したことのない新鮮な住環境
目立った店舗はないが、道行く人々から生活者のエネルギーを感じる。しっぽを立てた猫が堂々と道を横切る。そんな下町らしさが残る東京都大田区の「大森町」駅周辺。駅から歩いて1分の路地先に、大和塀に囲まれた黒い下見板張りの建物郡が突と現れる。7棟の木造長屋と母屋が建つまちの一角をまるごと再生中の『大森ロッヂ』だ。
「もともと京都の街並みとか町屋とか日本の昔ながらの文化が好きで、いつかそんな雰囲気の家に住んでみたいと思っていたんです」
そう話すのは、『大森ロッヂ』の平屋タイプの住戸に暮らすOさん。特に引越しを考えていた時期ではなかったが、インターネットで『大森ロッヂ』のブログを見つけ「ああ、求めていたの家はこれだ!」と思い、内見に行った。
「まだ工事中だったので、既に完成していた戸建てタイプを見せてもらったんです。そこで、建具や丸太の梁が昔のまま残っていることに感動してしまって……」
「ガラガラガラ」。玄関の白い引き戸を開けると、おばあちゃんの家で聞いたような音が鳴り、なつかしい安心感につつまれる。1歩踏み入れると、そこは腰掛け付きの小さな玄関土間。その慎ましい様子が、現代の若者の目には「可愛らしい」と映る。築後40年を経た丸太の梁や木製サッシ。傷が残り、つぎはぎの施されたそれらの材は「味わいがある」として彼らに受け入れられる。
決して、ノスタルジーではない。木造再生アパートは、現代の若者にとってはむしろ、これまでに体験したことのない新鮮な住環境。若い感性を通して、さまざまな再発見、再解釈が生まれる場所である。