入居の決め手は、木造建物の心地よさ
小田急線の「豪徳寺」駅を降りて小さな商店街を抜けると、突如真っ白なアパルトマンが姿を現す。その建物の名はフランス語で「女の子」を意味する『nana』。実は住戸数も“7”である。目を細めて外観を眺めると、その従来の姿……築37年を経た風呂なし木造アパートを想像することができる。
2008年1月、リノベーションにより新たな物語を吹き込まれた『nana』は、ブルースタジオのWEBサイトの中でも一際アクセス数が多く、空室待ちが続出する物件の1つだ。その1階の部屋に入居したのは、石倉正隆さん。就職をきっかけに上京して以来暮らしていた会社の寮を出て行かなければならなくなり、次に住む部屋をインターネットで探していて『nana』を見つけた。内見時に初めて部屋に踏み入れた時の、無垢のフローリングの気持ちよさに心を惹かれたという。一方で、石倉さんのちょうど真上の2階の部屋に入居したのは、学生の中島さゆりさん。初めての1人暮らしということで、両親と一緒に内見した上で入居を決めた。
部屋に招いた友人の第一声は「狭い」だったと2人はいう。『nana』の部屋は約15平米。広めの一部屋を除いて、バスルームにはシャワーのみで湯船はない。これは生活をする上で最小限の広さと言えるかもしれない。ところが、入居を決める際、石倉さんも中島さんも部屋の広さは全く気にならなかったそう。
2人が賃貸物件を選ぶ基準は、そこに暮らすことの心地よさ。足の裏で感じる木の床の気持ちよさ。年月を経た木の柱に自然と湧いてきた愛着。他の物件で味わったことがない、このような感覚や気持ちが入居を決める一番の決め手となった。「狭い」と話した友人も、しばらく部屋で過ごすうちに「木の匂いがするね」と言って、この部屋の心地よさを感じていたそうだ。