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INSIDE Vol.02


人の出会いを
創り出すアトリエ

Vol.02

東京都中野区『FEMTE』 リノベーション 賃貸 アトリエ
専有面積: 34.00㎡
職種: デザイナー
趣味: サッカー・自転車・読書

空きスペースをギャラリーへ

5階建てのコンパクトなビルを一棟リノベーションした『FEMTE』。この2階を借りているのは、デザイナーの石井大吾さん。ブルースタジオの元スタッフで、在籍中に『FEMTE』の設計を担当したのが石井さんだった。

リノベーション完了後すぐに、自宅とは別のアトリエスペースとして部屋を借りはじめた。2階の部屋はSOHOとして計画され、メインフロアは一面モルタル仕上げの土間仕様。

「ここは主にお客さんとの打ち合わせスペースとして使っています。テーブルだけは大きなものを置いていますが、他はほとんどものを置いていません。打ち合わせ用の写真集などはここにありますが、カタログなどはすべて自宅に置いて、図面も自宅で書くことがほとんどですね」

『FEMTE』は各階が様々な用途で使われている。オーナーの住居である4階、5階部分。賃貸物件である2階、3階部分。駐車場の1階。そして、使われずに物置と化していた地下の倉庫。

「存在すら忘れ去られていた地下スペースをギャラリーに」。ずっと考えていたこのアイディアを実現させるため、石井さんは何人かの作家へこの地下スペースの宣伝を開始した。そして、ついにその第一弾、作家山下香里さんの個展が現在開催中である。

写真上:設計のお客様との打ち合わせスペース。個展中はギャラリーとしても公開している。
写真左下:『FEMTE』の外観。

個展開催へのプロセス

個展開催のきっかけは、2008年9月、所沢で開催された「引込線」という美術展。そこで作家山下さんの作品を見た石井さんは、『FEMTE』の地下スペースの空気感にぴったりだと感じ、個展の話を作家へ持ちかけた。10月、実際にスペースを下見に来た山下さんは、即決でここで個展を開くことを決めてくれたと言う。

それ以前にも何人かの作家へ話を持ちかけていたが、展示場所としての実績がないため決めてくれる人が現れず、ことが前に進まない時期が長く続いた。シンプルな展示スペースのオープン。それでも何かを始めるのには、時間もお金もかかること、その大変さを実感したそう。

だが、いざ山下さんの個展の開催が決まると、仲間が集まり、会場づくりやDMの作成などが進んでいった。12月、地下倉庫の荷物を運び出し、山下さんと石井さんの友人4人で、まる3日をかけて壁や天井をペンキで真っ白に塗り上げた。もともと付いていたやや緑がかった光を放つ蛍光灯はそのまま利用することにして、作品の選択や配置が綿密になされていった。

そして、1月31日、ついに『FEMTE』初の個展が幕を開けた。初日に開かれたレセプションパーティーでは、料理人の友人にフードを用意してもらったという。ギャラリースペースのオープンをきっかけに、さまざまな場で活躍する友人たちも楽しみながら協力してくれた。

山下香里 個展『脱臼する地下、空景』
http://www.kaoriyamashita.com/

写真上:地下の展示スペースで開催中の個展「脱臼する地下、空景」の模様。

人と出会うきっかけの場所

個展開催の裏には、地下スペースのギャラリー使用について相談に応じてくれたオーナーの存在があり、個展に向けて素早い行動を起こしてくれた作家山下さんとの出会いがあった。

「時間がかかりましたが、今回の展示をここでできたことに満足していますし、第一回目を山下さんとできて良かったと思っています。この部屋に限らず、これからも自宅やオフィスとは別にギャラリースペースをもっていきたいし、作家を紹介していきたいです。そういったスペースをもつことは、色々な人に出会うきっかけにもなるんです。ずっと会っていなかった友人が訪ねて来てくれたり、作家とのつながりを生んだり」

海外では、一般の人が美術品を買う風習や良い作品や作家を発掘したいと考えているコレクターの存在がある。一方、日本ではそのような風習やコレクターの存在が少なく、作家として生きていくには厳しい国だと言われている。

「作品の価値は見る人がジャッジしていいと思う。よく分からなければよく分からないでもいいし、俺は好きじゃないでもいい。それすら言いにくくなっている雰囲気を感じます。誰かがいいというまでは、誰も動いてくれないのが日本かもしれない。少しずつ変化していると思いますが・・・」

『FEMTE』のギャラリーの使用料は応相談で決めている。一般的な使用料に比べかなり低くすることもあるが、それは「いい作家を紹介していきたい」という石井さんの想いによるところが大きい。

石井さんにとってこのギャラリーは、人との出会いを生み出す場であると同時に、日本人のアートに対する敷居の高さに一石を投じていく場。今後の活動にも注目だ。

2009年2月13日 『FEMTE』にて
撮影:岩田啓治 取材・文:和田亜弓(共にblue studio)

今回の入居物件のご紹介

東京都中野区『FEMTE』
専有面積:34.00平米
竣工年:1964年
リノベーション完了:2007年4月





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