たてものと家族の新しい歴史
東京の「品川」から横浜を経由して、神奈川の「三崎口」までをつなぐ京浜急行電鉄。通称・京急線には、青物横丁、屏風浦、生麦、金沢文庫など、歴史を感じさせる駅名が並んでいる。その中でも、ひときわ魅惑的な名前の駅がある。「梅屋敷」。名前を聞くだけで、梅の花が咲き誇る大きなお屋敷が目に浮かぶ。その名前の通り、江戸時代には東海道沿いの梅が見事な茶屋を中心に栄えた街。多くの旅人たちが足を休め、道すがら出会った人と会話を交わしたそうな。そんな梅屋敷を昔から知る家族が、ここ『うめこみち』の大家さんだ。
ひいお祖父様が建てた築80年、戦火も逃れた立派な母屋。その母屋の増築部分は、お祖父様によって隣地に曵屋されていた。さらに30年前、お父様によって、隣地に4階建ての賃貸マンションが建てられた。曵屋後、4軒の長屋として使われていた母屋の一部は、駐車場の中にぽつんと取り残された状況だった。
この既存の状況を生かし、建物を家族と見立てて再生を図ったのが『うめこみち』だ。築80年の母屋は、この場所を見守る存在の「ひいおじいちゃん」。リノベーションした築60年の長屋は「おじいちゃん」。築30年の賃貸マンションは「おとうさん」。そして今回、長屋を囲むように新築した2軒の建物は「ちびっこ」たち。“たてもの家族”は、小道と芝生があるひとつの庭をみんなで囲んでいる。
2012年、5世帯の住人を新たに迎えた『うめこみち』。新芽が芽吹くようにゆっくりと新しい暮らしが育まれている。