家づくりがうまくいく
「好きな素材」の使い方
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今回の特集『素材マニア』では、内装仕上げ材やパーツなど、好みの住空間をつくるための“素材”に着目したが、その舞台となる「物件」もまた、理想の暮らしをつくるための“素材”である。
東京にはおよそ930の駅があり、千葉、埼玉、神奈川を合わせると合計2034もの駅があるという。その街に住む人集まる人、店、文化、匂い、時間の流れ……、それぞれの街に個性がある。仕事帰りに気軽に寄れる飲み屋、行きつけのカフェ、愛犬を遊ばせられる公園、ジョギングにもってこいの運動場……。どんな街の物件を手に入れるかによって、ライフスタイルは変わってくる。
しかし「この街が好き」というシンプルな動機で選ぶことができる賃貸と異なり、住宅購入では多くの場合、価格を考えると「住みたい街に家を買う」とはうまくいかないものである。それでも、リノベーションに目を向けてみれば、その自由度は格段に広がるはずだ。今や中古住宅は増加の一方で、多様な物件が広範囲に点在している。中古住宅ならリノベーションの費用をかけても、同じエリアにある同規模の新築に比べて、お得に手に入れることができる。中古住宅は街暮らしのための絶好の“素材”なのだ。
さらに、都心で家を持つということは資産にもなる。マンションは購入後すぐに資産価値が下がるといわれる。20年で半値、30年で4割……、しかし、それ以降は価格が安定する。古いマンションを手に入れてリノベーションしても元の物件価値は下がらないため、売ることによる損失も軽減もできるのだ。
一方、思い描いているプランや内装に向いている“素材”であるかどうかも、物件を選ぶ際に見極めたいポイントだ。プランの自由度という点では、短手の間口が広いか狭いかで、プランのパターンが決まってくる場合が多い。台形状や三角形、もともとのプランが特殊な物件は、プランニング次第で大化けする可能性を秘めている。キッチンやバスルームなど、水まわりの移動が大胆にできるかどうかも、プランニングの上で重要だ。排水や換気のルート、梁の位置がどうかによって変わってくる。PS(パイプスペース)の数が多かったり、排気のための開口が少ない物件は注意したい。
内装については、既存内装を撤去してスケルトンからつくり上げることが可能だが、たとえば「天井仕上げを撤去して天井高を高くしたい」「躯体現しにしてラスティックな素材感を楽しみたい」といった場合、最上階や角部屋の物件は断熱改修を施すのが合理的であり、躯体現しは難しい。築年数の浅い物件やタワーマンションなどでも、住戸と住戸を仕切る壁がコンクリートではなく、取り扱いに注意が必要な乾式壁と呼ばれる壁になっていたり、配管や設備が天井裏に集中しているため、現しにできない場合がある。
既存内装を“素材”として生かす手もある。たとえばリフォーム済みの物件であれば、少し手を入れるだけでローコストで雰囲気をガラッと変えれることも。しかし、一見新しくても表層しか手を入れていないリフォームもあるため、機能や耐久性を考慮して「済み」がどこまでなのか確認したうえで検討したい。ちなみに、窓の数や位置は、生活環境の変化とともに個室を増減できる・できないに関わってくるだけでなく、将来的に賃貸に出したり売却する際に、物件の人気度にも関係する要素だ。
思い描くリノベーションにぴったりの物件を探すのもいいが、物件からインスピレーションを得る可能性もある。空間づくりと同様に、柔軟な感性を持ってセレクトしたい。
石井 健
1969年、福岡県生まれ。
ブルースタジオ執行役員。
edit&text_ Kanako Satoh
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