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家づくりがうまくいく「好きな素材」の使い方

素材を知れば、家づくりも、その後の暮らしもうまくいく!?
個人宅のリノベーション経験が豊富なブルースタジオの設計チームスタッフ・磯山克規に、
家づくりがうまくいく素材選びのポイントや使い方を聞きました。

素材にこだわるほど、我が家への愛着が増す

中古リノベーションでの家づくりを選ぶ方は、
住まいに使う素材やパーツへのこだわりが強そうです。

「弊社のお客様の場合、素材だけでなく、購入する物件やプランにもこだわりの強い方が多いですね。お客様の7割はこだわり派、あとの3割の方は弊社から提案されたいというタイプ。でも決して無頓着なわけではなく、好みははっきりしていらっしゃいます」

住まいに使う素材やパーツのどんな点にこだわる方が多いのでしょう?

「無垢フローリングなど、全般に無垢の素材にこだわる方は多いですね。色や質感といった見た目はもちろんですが、手触りの良さを追求する方もいます。
あとは、素材やパーツが持つ“ストーリー”。『ALICE』という事例では、LDKの床にNBAの体育館に使われるものと同等のフローリングを採用したのですが、アメリカにお住まいになられていたお施主様が、当時の暮らしへの想いを重ねて選んだものです。そんなふうに、スペックではなくストーリーで語れる素材やパーツを選ぶお客様もいらっしゃいます」

磯山克規 1981年生まれ、茨城県出身、設計チーム所属。
中古マンションリノベーションによる自宅づくりを2回経験。

NBAの体育館に使われるものと同等のフローリングを
採用した『ALICE』。特に床材選びは入念だったという
お施主様こだわりの素材。

フィーリングが重視される傾向にあるようですが、機能や性能についてはどうでしょうか?

「機能や性能にこだわる方ももちろんいます。見た目を重視する一方で、“メンテナンスがしやすいものを”という希望も多いんです。住まいの素材を選ぶ際は、空間の質をきちんと確保しながら、メンテナンス性という点での住みやすさもちゃんと担保されていることが大事だと思います。

とはいえ、メンテナンスフリーにこだわりすぎて、好みではないものに囲まれた空間になるよりは、好きなものに囲まれた空間に暮らすほうがストレスフリーですよね」

好きな素材やパーツを使った家なら、メンテナンスの手間すらも楽しめそうです。

「我が家への愛着が湧きやすいと思いますね。実際、お客様自身が素材やパーツを選んで家づくりしたお宅は、クレームがほとんどないんです。
おまかせするやり方も間違いではありませんが、自分で判断して採用したものでないと、何かあった時のトラブルや不満につながりやすい。

どういう特性を持ち、どんな手入れが必要なのか、どう経年変化するのかなど、その素材をきちんと知り、納得したうえで使うことが、満足度の高い家づくりにつながるのではないでしょうか。
我が家の素材に興味を持ち、能動的に選ぶことが大事だと思います」

家づくりがうまくいく“好きな素材”の見つけ方

仕上げに使う素材や各部のパーツは、
どのようなステップで決めていくのですか?

「マンションの中古リノベーションの場合、弊社では設計期間が大体2ヶ月で、打ち合わせの回数は8回ほど。その中で、素材やパーツだけでなく、プランも決めていかねばなりません。

僕らは設計に取り組む際、まずその空間の“コンセプト”を決めるんです。個人住宅の場合は、お客様の好きなものや暮らし方、考え方など、“その人らしさ”を表現するコンセプトを導き出し、デザインの核にします。

素材やパーツについても、まずひとつ、コンセプトを表現するものを決めます。床でも、キッチンでも、ドアノブでもいい。それを中心に他の部位も決めていきます。“これを使いたい!”というお客様の想いの詰まった素材やパーツからコンセプトをつくることもあります」

“独房に住みたい”というお施主様の希望から、
レンガやモルタル、コンクリート躯体現しなどの硬質な素材で構成した『Solid』。

みなさん、どうやって好きな素材やパーツを見つけているのでしょう?

「弊社のお客様の場合、お好きな建築やインテリアなどのイメージを、雑誌やインターネットなどであらかじめ収集している方が多いですね。“いつか使おうと思っていた”と、ドアやタオル掛けや照明などのパーツをすでにお持ちの方もいます。

“いつか家づくりをしてみたい”と思っているなら、日頃から好きな建築や空間、素材などを意識しながら生活してみるといいでしょう。“このお店、気持ちいいなぁ”と思ったら、どんな家具を使っているのか、壁や床はどんな色と質感なのか、そういうところをチェックしていくと、だんだんと自分の“好きな素材”がわかってくると思いますね」

お気に入りの服をコーディネートするように

ラワン合板とステンレスのキッチン、ハンドメイド感のあるタイル、オークのドアに
ブリックタイル…素材博のような『TOP UP!!』。

好きな素材やパーツがわかっていても、それらの組み合わせや、
手持ちの家具との相性を考えるのが難しそうです。
コーディネートのコツはありますか?

「服と同じように考えるとうまくいきやすいかもしれません。全体のテーマを決めたり、一箇所ポイントにするものを決めたり。そうすると、合わせるもの、メリハリのつけ方や外し方も見えてくると思います。
服の場合、ある程度セオリーがありますよね。スーツなら、ネクタイと靴下の色を揃えるとか。
そこをあえてハズしてみるとか、そういったお客様が思いつかない提案こそがコーディネーターである僕ら設計者に求められているものだし、設計者と取り組む空間づくりの醍醐味だとも思っています。

ほかに僕が設計者として注意しているのは、「見えていない部分」にも気を遣うこと。服でいうなら、裏地にもこだわるような感覚ですね。視覚以外に、音や匂いなども空間を認識するための大切な要素です。
たとえば、すべての壁を硬い素材にすると、音の反射が強すぎてしまう。なので、部分的にファブリックだったり、大谷石や有孔ボードのような多孔質な素材を使って、音の反射を落ち着かせます。塗料についても、塗装の仕上がりにツヤがあるのか、マットなのかによって、光を受けた感じがまったく違ってくるんです」

そういった、素材それぞれの特性や出来上がりのイメージなどは、空間づくりのプロに聞かなければわからない部分ですね。

「どんな素材でも、そのメリットとデメリット、扱い方をきちんと理解したうえであれば、使えないことはありません。興味がある素材やパーツがあったら、物怖じせずにどんどん設計者に相談してみてほしいですね」

素材がシンプルでも多彩でも、「自分らしい空間」はつくれる

こだわりの事例が多いブルースタジオですが、
中でも素材使いがユニークだった事例はどれですか?

「『Solid』という事例では、なかなかない素材使いをしましたね。単身男性のお住まいで、お施主様の要望が“独房に住みたい”だったんです(笑)。独房空間のイメージから、コンセプトは硬質や無垢という意味を持つ『Solid』に定めました。
天井はコンクリート躯体現し、キッチンは土台部分がレンガ積みで、天板は5ミリ厚のステンレス、床の一部はモルタルにするなど、無機質な素材で空間を構成しました。さらに、それぞれの素材が際立つようにと、LDKの壁面にはスイッチやコンセントプレートが一切見えてこないように工夫しています。コンクリートの躯体現しにした天井は、照明が一灯ぶら下がっている以外、何もありません。唯一、有機的な素材として、お施主様のご趣味がギターなのですが、ご愛用のギターに合わせて無垢のアッシュフローリングを使っています」

黄色の型板ガラスが入ったスチールフレームのサッシはオリジナル。
青いカーペットも鮮やかな『TOP UP!!』の玄関&土間スペース。

まさにお施主様のキャラクターを体現したお住まいですね。

「お施主様のキャラクターを素材使いに反映した例としては、『TOP UP!!』という事例もユニークですね。スケボー、スノーボード、音楽、イラスト、料理など、とにかく多趣味なご夫婦で、レンガやヘリンボーン、スチールサッシ、有孔ボード、アイアンなど、さまざまな素材を使っています」

ちなみに、磯山さんのご自宅も中古マンションリノベーションだそうですが、ご自宅で使ったお気に入りの素材やパーツは何ですか?

「浴室に設置したオーバーヘッドシャワーですね。海外のインテリア雑誌のバスルームなどでよく目にするタイプのシャワーで、やわらかいお湯を体全体に浴びることができるので、かなりリラックスできます。

そう話すと贅沢に聞こえるかもしれませんが、実は自宅にはバスタブを設けていません。思い切った選択でしたが、よくよく考えると、ひとり暮らしを始めて以降、自宅ではいつもシャワーで、バスタブに浸かったのは数えるほどだったんです。結果的にはバスタブの掃除もないし、シャワースペースが広々と使えるので、よかったことだらけでした。
そんなふうに慣習的に当たり前だと思っていることも、ライフスタイルとじっくり照らし合わせて考えると、違う答えにたどり着いたりするのが、家づくりの面白いところですね。

あとは、床仕上げに使ったフレキシブルボードもお気に入りです。セメントに繊維を混ぜてボード状に成型したもので、コンクリートよりも柔らかい風合いを持っています。とても硬質で切ったり貼ったりはひと苦労なのですが、床や壁、キッチンの面材など、フレキシブルに使えるところが好きですね(笑)。
気になっている素材は石です。自宅用に、石を使ったテーブルの製作を考えています。かたいものが好きなようです(笑)。ご興味をお持ちのお客様がいたら、石の家具を提案してみたいですね」

edit&text_ Kanako Satoh






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