話し合いの末に見えてきたのは“新しい東京時間”の提案。郊外的な魅力を備えた敷地を活かし、これまでにない都市生活の舞台をつくろうと考えたという。
「ぼんやり空を眺めながら、穏やかな時間を過ごすことができる家にしたいと思いました。そこで、ブルースタジオの担当者たちと対象地と同じようなロケーションの菜園レストランに行き、ディスカッションしたんです。浮かび上がってきたのは“空と過ごす家”というイメージでした」
2棟の木造3階建てのトリプレットが入り組んだような建物の形は、空に向かって伸びる豆の木をモチーフに計画された。『青豆ハウス』という名には、青木さんの名の一文字でもある「青」に「すくすく育つ」という思いを重ね、「豆」には空と菜園、そして入居者たちやここに集まる人々の“受け皿”となる賃貸住宅にしたいという思いが込められている。
「コンセプトは、シェアハウスを卒業した人が住みたいと思える、家族向けシェアハウス。昔の長屋のようなコミュニティがある共同住宅がつくれないかと考えました。計画時は震災の後だったこともあり、“集まって住む”ことの意味を問い直したい思いもありました」
“木造”も青木さんがこだわったポイント。当初は建物規模と構造上の理由から重量鉄骨造で計画を進めていたが、コストが跳ね上がることを承知で、木造への変更を決断した。
「コストの面では正直、ものすごく悩みましたが(笑)。それでも、自然に経年し、いつかは土に還るものを使いたかった。変化する素材は、賃貸では特に敬遠されてきましたが、変化することに愛着を感じてもらえるようにすればいい。そう発想を変換して挑みました」
以前は16戸だった戸数を、半分の8戸に減らしたことも大きな決断だった。全国的に空き家数の増加が問題になる中、むやみに住戸数を増やすことに抵抗があったという。
「空き家や空室問題は、自分たち大家にそのまま返ってくる問題ですから。さらに、リノベーションしやすい木造なら、時代に合わせて建物を使い続けることができます」
「建物が出来上がるまでを、みんなと共有したかった。入居者たちは、その物語に共感してくれた人たち。入居前から読み手として物語に参加してもらったことは、物件のコンセプトへの理解や、入居者同士の仲間意識、物件への愛着につながっていると思います」
ブログを通じて物件の“ファン”を増やしながら、ファンたちがより物語に参加できるよう、リアルイベントも企画。夏には上棟式と夏祭り、秋にはお釜で炊いたお米のおむすびと芋煮を食べる会に加え、クラフト作品のワークショップを開催した。入居申込みの受付も始めた秋のイベントの際には、入居検討者30組を含む約150名もの人が来訪。賃料は相場よりも高めに設定していたが、建物が完成する前に全戸の入居者が決定したという。
「もうひとつ入居者らへの“仕掛け”があって、それは住戸のカスタマイズ。キッチンや壁の一部の仕上げを、入居者が選べるようにしたんです。次の入居者が暮らす際も、好きな壁紙や色で壁の仕上げを変えてもらえばいい。ほんの一部分でも自分で家を編集することで、賃貸でも“我が家”だという愛着を、より抱いてもらいやすくなると考えました」
2015年春現在、『青豆ハウス』に暮らすのは、カップル、夫婦、親子3人家族など8世帯19人。実は青木さんご自身も、家族とともに『青豆ハウス』に居住中だ。
「今後ここで起きることをオーナーとして見守りたい思いと、いち住まい手として体験してみたいという気持ちからでした。暮らす上でのルールづくりやイベントの企画は、入居者たちと一緒に考えています。住む人たちで育てていくのが、『青豆ハウス』のコンセプトですから。ただ人が集まって住む“集合住宅”じゃなくて、みんなが一緒に暮らしながらつくっていく家だから、僕らはこの家を“共同住宅”と呼んでいます」