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04 石川家の兄弟 西調布一番街つくるまちプロジェクト 商店街が人と人をつなぎ“まち”をつくりあげていく

西調布一番街つくるまちプロジェクト
所在地:東京都調布市上石原
構造・規模:木造陸屋根セメント瓦葺2階建て
専有面積:7.96㎡〜9.58 ㎡
戸数:2物件で4アトリエ(6組が入居中)
竣工年:不明/リノベーション完了2014年9月

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「建物をきれいにして一時的に入居者が入ったとしても、この先も入居が続く状況をつくらなければ、問題を先送りしているだけ。この商店街そのものを魅力的なものに変えていくことで、先々も人が集まる状況をつくっていくことが、このプロジェクトの目的です」

そう話すのは、『西調布一番街つくるまちプロジェクト』の先導者である石川恭さん。舞台は、西調布駅と旧甲州街道の間にある長さ100mほどの小さな商店街「西調布一番街」。商店街の空き物件をアトリエとしてクリエイターへ貸し出し、ものづくりをする人たちが集まる“つくるまち”へと、商店街そのものをリノベーションしていこうという試みだ。

昭和30年代に、石川さんのお父様が私有地に店舗用物件を建て、商店を誘致したことが始まりとなって生まれた「西調布一番街」。かつては食料品店から生活用品店、飲食店までがひと揃いし、周辺の労働者や生活者の暮らしの中心地だったが、近隣にあった工場が閉鎖したことで人の流れが変わり、ここ数年で空き店舗が増加。石川さんが親族で所有する物件にも空室が出始め、石川さんはさまざまな対策を検討したという。
「商店街の通りは実は私道。幅員が狭いこともあって、建て替えたとしても収益性が見込めるボリュームの建物を建築するのは困難。さらに、この商店街に物件を持つオーナーは私たちだけではありません。足並みを揃えた再開発に臨むことも難しい状況でした」

そんな時にテレビの番組でブルースタジオを知り、相談へ。利益の見込める建て替えはやはり難しいという結論に至り、現状を活かす方向へと話が進むが、そこで提案されたのが“入居者自身が街をリノベーションしていく”という今回の企画だった。
「クリエイターに日常の仕事場として使ってもらうだけでなく、自分たちの活動をより広げるために、この場所と通りを活用してもらう。西調布の周辺には大学が点在し、中には芸大もあります。また、近隣に住む主婦の趣味活動の場としても使ってもらえる可能性があるのでは、という提案でした」

プロジェクトの第一弾として募集したのは2物件。それぞれ木造2階建ての1階部分をシェアアトリエとして貸し出した。現在の入居者は、パフォーマンスチーム、ものづくりユニット、イラストレーター3人、そしてデザインユニットという顔ぶれ。募集の際には、ポートフォリオのほか、この街と関わりながらどんな活動をしたいと考えているのか、企画書を提出してもらい、石川家兄弟との面談も経て入居者を決定したという。
「入居者の決定後、入居者のみなさんと食事に行きました。普通、オーナーは場所を貸すだけですが、今回のプロジェクトは入居者の方と一緒になって取り組んでいかなくてはなりません。そのためには、こちらのビジョンを入居者の方に共有してもらうことが重要だと思い、オーナーとしての想いを伝える場を設けさせてもらいました。また、プロジェクトの活性化には、入居者同士のつながりも欠かせないので、顔合わせの目的もありました」 

そうして入居前からコミュニケーションをとってきたためか、入居者が決定した年末から2ヶ月後に行われた『活動お披露目会』の際、石川さんと6組の入居者がやりとりする様子には、すでに“チーム”としての一体感が生まれていた。
「クリエイターたちと街をつなぐサポート役も募ろうという話になりました。そうしたら、プロジェクトの担当者のひとりが、自らやってくれることになって。今回、賃貸している物件の2階に住みながら、入居者の活動レポートやイベント告知など、『西調布一番街つくるまちプロジェクト』を外部へ発信していくレポーターとして活動してくれています」

石川さんが理想としていたのは、入居者たちが主体となって活動していく状況。活動が押し付けになってしまっては、プロジェクトの発展は望めないからだ。空間についても同様で、内装はつくり込まずに下地の状態で引き渡し、入居者が自由に改装できるようにした。『活動お披露目会』の日には、ショーウィンドウ越しに見える未知の空間と展示に、通りを行くご近所さんも「何のお店なの?」と、興味津々の様子だった。
「入居者の活動を通じて、外から人が集まってくるようになれば、商店街の人たちもプロジェクトに参加しやすくなるし、近隣に住む人たちを対象にしたイベントも行いやすくなると思うんです。インターネットを駆使した、今どきの若いクリエイターたちの集客能力に頼らせてもらいつつ、私もサポートに入りながら、商店街を活性化させていきたい」

まずは入居者を得ることが重要であるため、第一弾のアトリエ利用料はキャンペーンとして破格値で設定。ひとまず2年をめどにプロジェクトを見守りたいと石川さんは話す。
「家賃収入で利益が得られるのは、まだまだ先でしょうね(笑)。でも、何かしらのアクションを起こさなければ、何も改善しないまま。いずれはこれらの不動産を、次の世代に渡すことになります。引き継ぐにしろ売るにしろ、付加価値のある資産にしておくことができれば、安心ですよね。そうした、資産継承をスムーズにしたいという思いもありますが、生まれ育ったこの商店街を再生するために貢献したいという気持ちもある。入居者のみなさんと一緒に、楽しみながらプロジェクトを進めていきたいと思っています」

不動産を再生するための手段は、それを使う“人”と“ニーズ”を生み出すことが第一であり、建物のデザインを変えたり新しくしたりするだけではない。オーナーの柔軟な姿勢が実現させた、“街”というソフトを“人”で変えていく『西調布一番街つくるまちプロジェクト』の試みは、不動産の新しい価値の求め方としても注目したいものだ。







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