そんなアットホームな暮らしが展開するこのアパートのオーナーは、朝田啓介さん。この土地にはお祖父様の代から住み、アパートに隣接するご自宅に、奥様の真由美さんとお子さん、お母様の和子さんと暮らしている。内装や設備の劣化が進み、空室が出始めていたアパートは、一時建て替えも検討。しかし、代替わりによる土地活用で周辺には賃貸物件が増加し、競争の中で安定した稼働率を確保するには、何かしらの強みが必要だった。
「ハウスメーカーには1K9戸のアパートへの建て替えを提案されましたが、鎌倉に住む単身者はそう多くない。1戸の面積を増やすにしても、家賃相場が低いので費用回収が難しい。現実的なのは設備と内装のリフォームでしたが、先々を考えると不安がありました。そんな時に、ブルースタジオを特集していたテレビ番組でリノベーションという手法を知り、“これかもしれない”とブルースタジオにコンタクトを取ったんです」(啓介さん)
ブルースタジオが再生後のアパートのターゲットにしたのは“鎌倉ビギナー”。「素肌で感じる、ありのままの暮らし」「鎌倉の家族」をコンセプトに、海や文化など、鎌倉ならではのナチュラルな暮らしを都内に勤める生活者に提案しようというもの。
「それは、長年鎌倉に住んでいる自分たちには発想し難いものでした。リノベーションに投資した分、賃料が周辺相場より高くなっても、東京と比較すれば、安い賃料で鎌倉らしいのんびりとした暮らしが手に入る。近隣の賃貸にはない特徴を打ち立てるだけでなく、現実的なターゲティングと収益性もかなえる提案に、感服しましたね」(啓介さん)
啓介さんは、駐車台数を減らして、駐車場の一部を入居者たちが集うデッキにしようというブルースタジオの提案にも驚いたと言う。
「デメリットにならないか不安でした。でも今は、コミュニティの舞台として、このデッキの重要さを実感しています。普段から、デッキや階段で出会った入居者同士が立ち話をしている場面に出会います。門扉もオートロックもないけれど、そこに執着していたら、人の触れ合いがある暮らしに興味を持つ人は集まらなかったでしょう」(啓介さん)
テラスコナサーフのFacebookページの運営も担当している真由美さん。野菜の成長記録や、収穫した果実で作ったジャムの配布の告知などといった連絡事項のほか、鎌倉暮らしのナビゲーターとして、近隣のお店やお祭りなどの情報も発信している。
「Facebookは読んだ方からのリアクションがあるので、楽しみながら続けられています。前回は入居できなかった人など、入居者以外の人も見てくれているんです」(真由美さん)
Facebookでの発信は入居者とのコミュニケーションツールとしてはもちろん、物件のブランディングにも役立ち、ファンを育て、今後の入居者獲得にもつながっていく。オーナー家族が隣地に暮らすという条件を活かした、“鎌倉の家族”を地で行く運営スタイルが、見せかけではない実のあるコミュニティを生んでいるのだ。
「こうした、オーナーが積極的に入居者に関わるスタイルは、人によって合う合わないがあると思います。僕らも以前は管理会社任せで、入居者の方とは没交渉でした。でも、ブルースタジオの提案に共感できた。だから、やってみるべきだと思いました」(啓介さん)
リノベーション後、2013年春から入居を開始したテラスコナサーフだが、2015年現在、すっかり“鎌倉の家族”になった入居者たちと朝田さん一家の暮らしがそこにあった。
「ひとり暮らしだった入居者が結婚して、ご主人と暮らすようになったり、入居するご夫婦にお子さんが生まれたり。遊びに来た彼氏やお友達を紹介してくれる方もいるんですよ。デッキがある前庭は、全面駐車場だった頃よりもずっと明るくなって、目の前の通りを行き来する近隣の方にも“このアパートいいわね”なんて評判なんです」(和子さん)