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フィクションの背景をリアルに

イシイタケシ

1969年生まれの古株。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)でも「古い物件の家賃を倍にする不動産集団!」として紹介される。「郷さくら美術館」(東京・中目黒)を始めグッドデザイン賞6度受賞。「FURNITURE半身浴」を始めリノベーションオブザイヤー8度受賞。著書『LIFE in TOKYO』(エクスナレッジ)。


建築やインテリアのイメージ作りやアイディアの参照はインターネットの登場で大きく変わり、SNSによって2次元の視覚情報としては飽和状態と言えるでしょう。さらに、近年の生成IDが加わったことでいく末がどうなるなのか?多くの議論がされています。


私自身も実在する(した)建築やインテリアの他に、無数の影響を受けている映像作品があります。もはやそれはランキングにできないほど多く、書き始めて「困ったな」と思い始めているところです。その中でも、始めて観た時のインパクトが鮮明に残っていて、実際に事例としてその影響がうっすらと影を落としている『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』(原題: Year of the Dragon)のプロダクトデザインを紹介してみたいと思います。

1985年に公開されたアメリカの犯罪ドラマ映画で、マイケル・チミノが監督を務めました。この作品は、アメリカのニューヨーク市内における中華街を舞台に、華人コミュニティとその中での犯罪のダイナミクスを描いています。ニューヨーク市の警察官がアジア系アメリカ人の犯罪活動が増加する中で、華人コミュニティに深く入り込み、ギャングや腐敗した警官たちと闘う姿を描いています。

その中で、ミッキーローク演じる主人公がアジア系セレブアナウンサー(アリアーヌ・コイズミ)の自宅を何度も(無理やり)訪れるのですが、当時高校生の私は、高級マンションの中央にあるオープンなバスルームと部屋直通のエレベーターに衝撃を受けました。

なお、この高級マンションのデザインは本職の映像プロダクションデザイナーではなく、Lembo-Bohn Design AssociatesというNYの設計事務所が手掛けています。(最近の事例は相変わらず豪華であるものの、ちょっと残念な感じがします...)
今でも一部のマニアでは有名なインテリアのようで、間取りを再現している人もいます。


肝心の映画のほはというと、B級バイオレンスの伝説的な作品として評価され(腐ってもチミーノではありますが)、タランティーノやオリバーストーンも絶賛していいることからも、80's当時でも暴力や差別の酷さに激しい批判が集まりました。観る人はそのつもりで準備?期待?してください。少し話ずれますが、ジョン・ローンは痺れるほどカッコ良いです。
さて、その記憶から長い長い時間を経て、私が手掛けたいくつかの事例に繋がっていくのですが、最も色こく影響が出ているのではバス好きシングル男性のこの事例では無いかと思います:

sg250501_02.jpg

Nube (2006) ※ 現在は2人目のオーナーが居住中

素材が日本の築古マンションなので掘り込みバスというわけには行きませんでしたが、「隠れて洗う浴室」という概念を捨て「水浴びと沐浴を暮らしの中心とする」と考えました。映画「湯道」の家元の入浴シーンなどに通じるものがあるかもしれません。

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sHeeP (2005)

もう1事例として、戸建のケース。こちらのバスは「閉じて」いますが、外部の中庭と繋がり、掘り込みを叶えた事例です。この小さな坪庭のために一部減築を行いました。

ここ最近は、メンテが楽なローレンジのユニットバスを選択されるケースが大多数になりました。コスパ、タイパが重要視される世の中ではありますが、少しチャレンジングな生活空間が可能なのもオーダー住宅ならではの楽しみです。ほんの小さなことでも良いので、自分だけのオリジナルな「何か」を創り設けてみてはいかがでしょうか?





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