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『隣の女』

さかぐち

鹿児島県出身。ラジオと映画とジャスミンに囲まれて生活中。時の流れに身をまかせ、いつの日か向田邦子になるのが夢です。


「終わり良ければすべて良し」と言いますが、私はそうは思いません。
正確に言うと、「終わりも大事だけど最初の方が肝心」だと思っています。
これは、私の尊敬する向田邦子さんの作品から学んだことです。

今回のブログのタイトルでもある向田作の短編小説『隣の女』は
こんな書き出しから始まります。
(作品名からして、なんとも人間味あふれる題名ですが!!)

ミシンは正直である。
機械の癖に、ミシンを掛ける女よりも率直に女の気持ちをしゃべってしまう

たったこの数十文字で見事に胸を掴まれてしまいます。

この人は女性であること
この女性は長くミシンの使い手であること
この女性は普段は我慢して言いたいことが言えない鬱屈した状態にあること
...一瞬にして色々な妄想が膨らんでしまいます。

私は昔から本を読むのは好きではなく、中学校の読書の時間も
ブラックジャックやはだしのゲン、家にあったビジネス書(挿絵が多いもの)を取ってきては
文字は読まず、挿絵があるページだけをパラパラとめくり、時間を持て余していました。
一言でいうと読書が大の苦手。

読み進めていくごとに本の世界に引き込めれていく、というのは理解できるのですが
そこまで待てないのです。

だからこそ、最初に向田作品に出会った時には
パンをくわえてたまま街角でいけてるメンズとぶつかって「きゃ★」レベルの、
冒頭で心をムンギュと掴まれる感覚にはまったのでした。

ここからはぜひその感覚を皆さまにも共有させてください。
向田作品の作品書き出しをご紹介いたします。

コーヒーの黒い色には、女に見栄をはらせるものが入っているのだろうか。
ー『春が来た』より

目を覚ますと、一番先に台所へゆき冷蔵庫から卵を出す。これが佐知子の朝の習慣だった。
ー『嘘つき卵』より

マンションの扉を叩くのは、とんとんとふたつずつ三回と決めてあった。表札は庄治の言いつけで出していない。
ー『だらだら坂』より

女房が出ていってから、睦男はいろいろなことを覚えた。
パンは三日で固くなる。食パンは一周間で青カビが生え、フランスパンはひと月で棍棒になる。

ー『マンハッタン』より

ビスケットとクッキーはどう違うのだろうか。
夜中に目が覚め、ふとそんなことを考えたら、いつにないことだが、なかなか寝つかれなくなった。
小腹が空いていたらしい。

ー『昆布石鹸』より

最後の昆布石鹸はエッセイですが、これもまた最初からクスリとしてしまう、なんとも軽快な始まり。

時々電車に乗ってぼーっとしながら、目を惹かれる人物や光景、建物を見ると
自分でも「向田邦子っぽい始まり」の文章を考えてしまいます。

この間、「長渕剛っぽい歌詞クイズ」というのをラジオでやっているのを聴き、
いつか自分の考えたものと向田作品をごちゃ混ぜにして、
身内に「勝手に向田邦子イントロクイズ」を出題してみても面白いかもな、と企んでいる今日この頃です。

いつだかホリエモンも、プレゼンは最初にどれだけオーディエンスのハートを掴むかが大事なんだ
と最初の肝心さを力説していました。

私は自己紹介があまり得意ではありませんが、最初に面白そうな人だと
思われるための "第一印象演出" は非常に重要ですよね。
最初に心をつかめるかどうか........突かれると胸が痛くなります。

第一印象は何を持って決まるのか。
見た目なのか、第一声なのか、立ち居振る舞いなのか。

答えは全てですが、ただ、改めて考えだすと、自分を女優に見立てて登場シーンを決める
みたいなことだと思えば、自分自身でも楽しめるかも、とも感じております。

いつでも楽天的な自分に感謝感謝。

向田邦子さんの作品のように最初に人の心を掴んで離さないと人間になれるように
これから日々研究していきたいと思います。





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