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働き方の流動性と都市

こばゆ

心と体の健康を第一に暮らす。最近ハマっていることは公園で昼寝。AGRICULTUREとARCHITECTUREの融合を志す。その先に見える風景とは。


はじめに言っておきたいのは、私は一つの会社で長く働くことを肯定も否定もしているわけではありません。
長く働くこと、流動的に働くこと、どちらの働き方も共存するべきだと考えています。


さかのぼること2013年、私がベルリンの設計事務所でインターンをしていたある日、それまで働いていたスタッフの大半が出勤してこない事に気づきました。仲良くなったスタッフの方に「今日はみんな休みですか?」と何気なく聞いたら、「彼らはプロジェクト契約で、プロジェクトが終わって契約が切れたから、来ないよ。」
と言われ、大きな衝撃を受けました。ドイツでは、設計職で正社員になれない方がこんなにも多くて、プロジェクトが終わっただけで働く場所を失うのか。。。ドイツの労働市場はなんてシビアなんだ。。。

その後、大学院の事務局から、インターン先を変更しないと単位が出ないといわれ、インターン先を探し、オーストリアの設計事務所に行くことになりました。新しい事務所に来てみると、総務の方しかおらず、設計の方が見当たりません。なぜだ?次の日初めて他の設計のスタッフの方が出勤しました。
話をすると、彼女は週3日だけ設計をしてお金を稼ぎながら、他の時間はアーティストとして自分の作品制作に時間をあてていることが分かりました。

他のスタッフの方も同様に、研究や制作など、設計以外の活動をしているため、毎日事務所に来るのは自分だけでした。
(なぜか日本人の私が電話番のようになり、ドイツ語がわからないので、相手を困らせることもしばしば。。。)
設計以外の活動の話を聞いたり、実際にアート作品を体験させてもらったりしていると、彼らの生活が、設計職があるからこそ食べて行ける一方で、フルタイムではないからこそ、自分の活動に本腰入れて取り組めていることも分かりました。

彼らの働き方を知り、先程冒頭に書いたベルリンでの契約終了の衝撃が、実はそんなにネガティブなことではないのでは?と思うようになりました。もしかしたら彼らは望んでプロジェクト契約として期間を区切って働いていたのかもしれない。
一定期間働いて、他の活動に時間を使っていたのかもしれないし、もしかしたら経験の幅を増やすために、一つの会社に縛られない契約をしていたのかもしれない。今みたいに日本でもジョブ型雇用や、働き方改革が話題になる前だったので、そんな考え方に最初は気がつきませんでした。

日本の現状を見ると、かつてほど終身雇用は当たり前ではなくなってきていることは明白です。
ニュースでは正社員が減って、非正規社員が増えている数字だけを見て、さも大問題のようにメディアに取り上げられているように思えます。
もちろん正社員になりたい人が、正社員になりにくい状況が増えているという意味では問題なのでしょうが、
一方で、先程ふれた事例のように、柔軟な働き方を望む人が増えているのは、自分の周辺を見回してみても実感として感じられるので、
自分から望んで正社員にならない人も増えているのではないでしょうか。

歴史を少し振り返ると、
日本では戦後、GHQの農地改革により、地主から土地を小作農に売り渡され、さらに住宅金融公庫の住宅ローンにより一般人が自分の将来の労働力と引き換えに、住宅を手に入れることができるようになりました。これはすなわち、長くて35年間、従順な労働力として継続的に働かざるを得ない状況をつくったとも言うこともできます。終身雇用の仕組みも、この住宅ローンの仕組みと表裏一体と言えるでしょう。
一方、ドイツやオーストリアでは、日本と比較して持ち家率が低いことが、もしかしたら雇用の流動性とも連動しているのかもしれません。

さて、そんな時代を経て、今後人口が減少していく中で、エリアによっては、35年分の労働力をつぎ込まなくても不動産を得られる可能性が高まっていくのではないでしょうか。たしかに、不動産の市場的価値が高いエリアでは、労働力をつぎ込み続けなければならないのですが、地方ではそんなことも無いでしょうし、都心部で働かなくても良い社会的な条件が整ってきていることから、何も一つの仕事に全ての労働力(時間)をつぎ込まなくても良くなるかもしれません。

たとえば、①短時間でお金を得られるが、スキルはそんなに伸びない労働 ②お金はそんなに得られないが、スキルが伸びる仕事 ③お金もスキルもそんなに得られないが、自分が楽しめる活動 など、条件が異なる選択肢に自分の時間をどう分配するか、自分で決められる時代になっていくのではないかと感じています。

時間の使い方が多様になる時代は、都市のハード面よりもソフト面が充実する時代なのかもしれません。ハードが充実するには、より多くの労働力が貨幣を通じて都市に注ぎ込まれることを意味します。
ハードは今あるものを活用して、その代わり余った労働力=時間を都市での活動(ソフト面)に使える都市では、まちを歩けば多くのアーティストや路上パフォーマーに出会うことができることでしょう。

働き方が変われば、都市が変わるのは、明らかです。

ただ、ここで強調しておかないといけないのは、一つの会社で長く働く人がいるからこそ、組織としての安定性を保てる側面もあるということです。スタッフが全員すぐに入れ代わっていたら、クライアントとしては困惑するに違いないし、ノウハウの蓄積が困難になってしまうことでしょう。会社にとって、そのような人はとても大切な存在です。そして、もしかしたら一つの会社内で、上記の①②③に時間を分配できるというケースもあるのかもしれません。

冒頭にも書いたように、どちらが良いということではなく、どちらも選べるということが、私は大事だと考えていますし、
それが特別なことではなくなる時代がもうすぐ来ると考えています。





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