「世界観」という言葉に皆様はどのような印象をお持ちでしょうか?自分は最近まで、この言葉をどうしても好きになれませんでした。
例えば、ディ○ニーランド。
あるエリアを囲って、その範囲内に「SF」「西部劇」「アドベンチャー」といった、物語の世界を作り出し、そこを訪れた人はその物語に酔いしれる。「世界観」という言葉はこのように、仮想現実に人々を没入させ、正気を失った状態の人々に消費をさせるためのテクニックだと、かなり穿った見方をしていました。
建築で言えば、「世界観」は、「地中海風の住宅」「北欧風の住宅」といった、ハウスメーカーが建築を「商品」として売り出すためのテクニックぐらいに思っていました。
でも"世界観"の言葉を調べると、「世界を全体として意味づける見方・考え方のことである。人生観より広い範囲を包含する。単なる知的な理解にとどまらず、より情意的な評価を含むものである。」とのこと。
どうやら世界観は、テクニックではないらしい。"世界観"は世界の捉え方のことらしい。完全に誤解をしていました。
では、僕はこれから"世界観"という言葉とどのように付き合っていけばいいのか。
仕事においては"世界観"という言葉を避けて通ることはできない。
そんな迷いを抱えていた時、茅ヶ崎市にある熊澤酒造を訪れました。
熊澤酒造の敷地内には、古民家を移築したレストラン、カフェ、蔵を改装したショップ、庭、酒の製造工場が集まり、一つの場をつくっています。
彼らのHPには以下のような文章があります。
明治5年の創業以来、ひたむきに日本酒を造り続けて150年。熊澤酒造は湘南に残された、ただひとつの蔵元です。
僕たちは、蔵元を単なる酒造メーカーだとは思っていません。地域の誇りとなる酒造りはもちろん、人々がそこに集い、酒を酌み交わし、何かを生み出す磁力を持った場所。そう、地域文化の中心地でありたいと考えているのです。
そこに蔵元があることで、人々の暮らしが豊かになり、独特の文化が生まれる。その文化は成熟し、100年、200年後にも受け継がれていくことを、僕たちは願っています。
※熊澤酒造HPより抜粋
この文章にある積み重ねられてきた時間に対する敬意と、これからの地域文化をつくっていこうという熱意が、空間からもひしひしと伝わってきました。
敷地内には古民家の柱梁・生き生きと根付いた植物・瓦や大谷石の舗装・使い古された井戸など、
時を重ねた材料やモノ、時を重ねることで魅力を増す素材づかいが徹底刺されています。
そのうちどれが本当にこの場所で時間を重ねたものなのかは、わかりません。
でも、確かにそれらは、この場所の時間に組み込まれていました。
そこで出される食事やお酒も、売られている雑貨にも、ひとつひとつこだわりがありました。
単なる消費のための「世界観」を超えて、訪れる人の価値観に対する、示唆をあたえてくれるような空間だと思いました。
それは、この場所を育む熊澤酒造の方々の、歴史や地域に対する想いが、空間に現れているからだと思いました。
しかも、それが、現実から切り離された仮想現実ではなく、あくまでも現実の地域や歴史とのつながりのなかにあるからこそ、自分の生き方や価値観を問い直す、そんな時間を過ごせる空間なのではないかと思いました。
熊澤酒造を訪れたことで、テクニックとしての「世界観」ではなく、世界の見方としての"世界観"を空間化するということはどういうことか、学ばせてもらいました。
みなさまも是非一度、訪れてみてください。