最近仕事もプライベートもちょっとばたばた。
この日の最後の仕事は荻窪にて。
荻窪は大学時代よく通った街なので、要件が終わったあと懐かしくて少しふらふら。
ふらふらふらふらしていると、ふと頭をよぎった。
「そうだ、邪宗門へ行ってみよう」
荻窪駅北口アーケイド街という、ほんとに短い商店街にあるこちら。
学生の頃からよく前を通りがかっては気になっていた。
しかし朝早く通ってもあいてない。
夜遅く通ってもあいてない。
しかも、あいてたとしてもちょっと入るのに勇気がいるこの外観。
純喫茶には通いなれているわたしだけど、正直ちょっと躊躇していた。
でも、この日は違う。
表のメニューに一通り目を通してから
幅の狭いガラス扉を押した。
ガラス扉をあけると、目の前にこれまたかなり幅の狭い、急な階段。
「2階ですか?」と立ち話をしていた若い女性に声をかけると
「はい」とひとこえ。
そろりそろりと階段を上がるわたし。
階段を上りきると、実に小ぢんまりとした空間に所狭しとテーブルと椅子、
それからオーナーが集めたであろう骨董品やオーディオ機器が置かれていて
なんだかとってもノスタルジックな雰囲気。
あ、そうか、京都の祖父母の住む長屋にどこか似ているんだ。
しばらく空間を堪能していると、階段をゆっくり上ってくる音が。
「いらっしゃいませ」と声をかけてくれたのは先程の若い女性とは違う
なんとも品が良くて、小さくて、かわいいおばあさま。
おしぼりとお水を置いて下さると、これまた歴史を感じさせるメニューを差し出され。
「どちらがお勧めですか?」と尋ねると
「甘いのはお好きですか?」と聞かれたあと
ルシアン・コーヒーを勧めてくれた。
「じゃあ、それでお願いします」
読書をはじめたわたし。
かなりの時間が経過。
下階からはコーヒー豆を挽く音が聞こえてくる。
こういう喫茶店では、飲み物を待つ時間さえも魅力になってしまう。
しばらくして再びおばあさまが急な階段をトレーを持って上ってきた。
「お待たせ致しました。ルシアン・コーヒーと...良かったら、ビスケット」
かわいいビスケットを差し出してほほ笑むおばあさま。
ルシアン・コーヒーは温かいココアとコーヒーのブレンドにクリームが乗ったもの。
クリームの上に懐かしのカラフルなスプレーチョコ。
甘さがじんわりと響く、とっても美味しい一杯でした。
その後、久しぶりに訪ねてきたであろう常連さんがおばあさまに
「あーよかった、まだ元気でいてくれて」と声をかけているのを耳にする。
なんて暖かいお店。
素敵なおばあさまのいる喫茶店には素敵なお客様が通うのだ。
わたしは純喫茶が大好きだけど
最近マスターが高齢でお亡くなりになり閉店するケースや
お店が老朽化して閉店するケースをたびたび目にする。
大好きなお店がそうなったときは、言葉にできないくらい寂しくなる。
帰りがけ、おばあさまにお会計をして頂いたとき
「こちらは何年から営業されているのですか?」と尋ねてみると
「...昭和30年からです」と、物腰やわらかく言ってくれたおばあさま。
なんとこのお店はわたしの2倍以上生きているのだ。
何とも言えない感動でいっぱい。
「またきますね」と言うと
おばあさまはわざわざお店の外まできて
「ありがとうございました」とお辞儀をして下さった。
ああもう、なんだか心がいっぱい。
素敵なお店に出会えた喜びと
毎回純喫茶から感じる何とも言えない切なさと
それからおばあさまに「どうかお元気で」と言えなかった自分への後悔と。
家路に着くまで、いいえ、眠りにつくまで
この日は心が満たされたままだったのでした。
<わたしが座った席>
写真は全て邪宗門のホームページから引用させて頂きました。
http://www.jashumon.com/ogikubo/index.htm
<ayako*>