設計担当ミキです。
ノコギリ屋根工場のリノベーション事例を見学に、群馬県桐生市に行って来ました。
桐生市は群馬県の東に位置する都市です。 絹織物の産地として古い歴史を持ち、かつては日本有数の繊維工業都市として栄えました。
「新宿」駅発、
宇都宮線直通・湘南新宿ラインに乗り、 「小山」駅」で 両毛線に乗り替えて片道約2時間半(!)で「 桐生」駅に到着です。
両毛線は両毛地域と呼ばれる栃木県南西部~群馬県南東部を結ぶ路線で、もともとは生糸や桐生織など、織物の輸送のために建設された路線だそうです。 今はもっぱら通勤・通学に利用されています。
車窓からはのどかな田園風景や河川・紅葉に色づく山々を望む事ができます。
冬季はドアが手動になり、それもまた風情がありますが、 私は 表示 に気がつかず、ドアの前でしばらく立ちすくんでしまいました。 恥ずかしい・・・
まずは桐生駅構内にある「結(ゆい)」という市民活動センター・案内所で情報収集。
市内に点在するノコギリ屋根工場の場所・公開状況を確認しつつ、それらを効率良く回る方法を相談したところ、その場で無料のレンタルサイクルをお借り出来ました。(ちなみに電動自転車だと有料になります。)
最近はもっぱら愛車のロードバイクに乗っているので、いわゆるママチャリに乗るのは久しぶり。スピードは出ないぶん、お散歩気分で乗れる安定感のある乗り心地です。
まず立ち寄ったのは、駅から程近いヘアサロンとして再生された建物です。
大谷石積みの土台兼外壁に木軸のノコギリ屋根を載せたシンプルな構造。
お店の方のご厚意で内部も見学させて頂く事ができました。
シャワースペースやバックヤードが箱型のボリュームで配置されている、大空間を生かした内装。北側からの安定した採光もお店の用途に合っており、居心地が良いです。
もともと近くにお店を構えており、ここに移転して既に10年が経つそう。
「リノベーション・コンバージョン」というフレーズも最近では一般的になりましたが、それより以前に再生され、きちんと活用され続けていることに驚き、関心しました。
今見ても十分新鮮に感じる空間です。
次に向かったのは木造のノコギリ屋根工場。現在は織物資料館として活用されています。
敷地内には2棟のノコギリ屋根工場のほか、整経場・釜場・撚糸場・寄宿舎などの織物業の一連の施設が現存。桐生に現存する工場の中でも大規模なものになります。
現在も織物業を営んでおり、歌舞伎の装束の生地などを生産。伝統的技術を今に伝えています。
当日は小学生が社会見学に来ていました。
桐生市の歴史を辿る、活きた産業遺産として重要な建築群です。
現在、桐生市内には230ものノコギリ屋根工場が現存しています。これほど残されている地域は国内でも他に例がありません。
「高い天井・大空間・安定した北側採光」という魅力をもつノコギリ屋根工場は、現在では店舗やアトリエやワインセラーなどの様々な用途に転用されています。
またそれらの目だつ再生事例以外にも、普通に工場として使われ続けているものや住宅として住まわれているもの、ファサードは普通の店舗で裏にまわると実はノコギリ屋根工場なんていうものもあります。
街を徘徊しながら見つけて、勝手に再生の可能性を妄想するのもまた楽しいです。
最後に訪れたのは「ベーカリーレンガ」。
おととし2008年4月にオープンしたばかりのベーカリーカフェです。
こちらはレンガ積みの外壁の上にノコギリ屋根が載っています。これまで見た中でも繊細な瀟洒な印象。元レース編み工場だったというのも、妙に納得。
ちなみにレンガは東京駅と同じく埼玉県深谷産だそうです。
やわらかい光が差し込む広々とした店内。落ち着きます。
"マッスな外壁+軽やかな屋根"というバランスが、心地よく・美しく・魅力的な空間を生み出しているのでしょう。
壁や天井をよくよく見ると、鉄筋ブレースが入っています。キチンと構造補強もなされているようです。
昭和初期に建設された事務所棟や住宅も、工場に併設して建ち並んでいます。機会があればそちらも見学したいところ。
ちょっと遅めのランチ休憩。パンプキンタルトと暖かいカフェオレを頂きました。
平日だったのでお客様はまばらでしたが、ご近所の主婦らしき方々がおしゃべりに花を咲かせたり、近所の群馬大学の学生がオヤツを買いに来たり。すっかり街に馴染んでいる様子でした。
合理的で機能的。そしてシンプルな美しさがノコギリ屋根にはあります。
そこに「なんとか維持していきたい」と考える地元の人々の愛着・努力が加わって初めて今の桐生市の姿があるのでしょう。
実は、もう15年ほど前になりますが(歳がばれる)、姉が群馬大学に通っており、私も高校生の頃に桐生市に何度か足を運んだ事があります。
建築や古民家に今ほど興味を持っていなかったですし、おそらく観光地としても未だ整備されていなかったので、その頃は全く桐生市の魅力に気が付いていませんでした。
姉に聞いて見ても「ノコギリ屋根がある・歴史ある街」という印象は全く持っていなかったそうです。
こんな風に、きっと誰にも見つかっていない素晴らしい建築や街並みが、日本にも未だ沢山残っていることでしょう。
それらを発掘して、活きた資産として再生する事。
リノベーションの可能性はまだまだ尽きません。
(ミキ)