それは一瞬の出来事だった。
けれど、確かに灯りがともったことを、わたしは忘れない。
「建物老朽化」という1つのくくりで、
灯りを失っているモノは少なくない。
しかも、そうゆう建物に限って、格好がいい。
そして、その格好のよさに人は恋をし、やがて多くの人々に愛される建物になる。
いや、愛すべき建物なんだ、ほんとうは。
それは、まさに偶然だった。
もう二度と見ることはできないだろうと思っていた。
でも、自分の目で見た光景は、本物だった。
灯りの消えたはずだったビルが、一瞬だけ、輝いた。
ビルは、すごく嬉しそうに、寒空の下、たたずんでいた。
それは廃墟となっていた建物が、息をふきかえした瞬間だった。
みんなの記憶から薄れることをくい止めるかのように、
まぶしいほど、光を放っていた。
あたかも昨晩も、その前の晩も、そのまた前の晩も、
かわらず光っていたかのように。。。
。
。
「忘れないで」って言っているみたいだった。
。
。
そんなビルをみて、わたしはおもわず、にっこりしてしまった。
あの堂々っぷりと、「やっぱり、格好いい」と思わざるをえない存在感に。
でも、
と同時に、ポケットに入れていた手にぐっと力が入った。
寒かったからじゃない。
こんなに魅力ある建物を放置している現実に、
やりきれない思いを感じたからだ。
そんな、ほんのりセツナイ夜の出来事だった。
時間も、人も、建物も、すべて有限である。
でも、格好いいものは、人でも、モノでも、
理由なく無限に伝えていきたい。
そこに、確かに存在し、息をしていた証を、
ずっとずっと、残したい、それだけなんだ。
そうゆうの、しなきゃダメだ。
(ユキ)