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INTERVIEW No.45


街並みと生活文化の
魅力を次世代へ

藤沢百合 / Yuri Fujisawa

今回取材したのは、ブルースタジオを卒業後独立し、「スタジオ伝伝」を設立した藤沢百合さん。現在は、岐阜・郡上八幡にて「空き家活用プロジェクト」のメンバーとしても活躍しています。先日行われた東京・千駄ヶ谷の事務所開きでは、私たちブルースタジオのスタッフも招いていただき、不動産、建築、茶道、着付け、華道…など、多様な技、感性の結晶に感動したのでした。今回お話を聞いて感じたのは、単に古き良き建物を残していくだけでなく、そこに根付いた日本の生活文化や伝統の魅力を含め次世代に伝えていきたいという熱い想いでした。

ブルースタジオ(以下、BS) 藤沢百合(以下、藤沢)

郡上八幡との縁

BS iw45_03.jpg 岐阜県の郡上八幡で「空き家活用プロジェクト」の活動をするようになったきっかけを教えてください。
藤沢 きっかけは、本当に偶然が重なって...でしたが、この仕事をやりたい!と思ったのは、へんな使命感みたいなものからです。 そもそも独立して作った会社の目標が、「日本の伝統的建築を次世代に、世界に伝える」で、古い日本家屋を快適に生活できるよう改修して次世代に残す。また宿泊施設として活用して、都心のマンション育ちの人や外国の方たちに日本の家屋の作りや生活文化を体験で伝えていきたい、ということだったんです。 独立してから東京でも何度かオーナーさんに提案しましたが、「建物が古くなっても、土地の資産価値は高いから、いずれ壊して売却すればいい...」と。その建物が残ることが大事なのに!!なかなか思いは伝わりませんでした。 このままでは日本の伝統的な木造建築は、どんどん取り壊されて、日本らしい景観がなくなってしまうのでは...日本はこれから観光ビジネスで海外からのお客様を取り入れていかなければならないのに、せっかく来てもらったお客様に伝統的な日本の町はこんなだよ、と見せれるものがこのままではなくなってしまう!と非常な恐怖を感じてました。 そんな時に、ブルースタジオの元上司、大島がやっている「リノベーションスクールin鳥取」に参加したんです。
BS リノベーションスクールって、実在する建物を対象として、スクールの参加者たちがその活用法を企画し、オーナーさんにプレゼンテーションまで行うんですよね。実現化する企画もあるとか?
藤沢 そうなんです。実際、私の参加したチームの案は実現化しました。鳥取は祖父母の家があり、小さな頃から親しんできましたが、最近は駅の近くもシャッター商店街化してきてます。そんな商店のひとつ、木造2階建ての元喫茶店の空き家の活用案でした。ブックカフェ「ホンバコ」。市民から著名人まで、いろんな人のお勧めする本が詰まった本箱があるカフェで、その本箱は町中を飛び回って、いろんな年齢層の人をつなげていく。この案は、地元出身の若い男の子が主催し、協力者と一緒に建物を改修し、本箱を作り、実現化しました。私は東京にいたので、企画やスケッチのお手伝いしかできませんでしたが、その時から地方の方がオーナーさんの真剣度が高い、必死さが違う、と感じ始めました。加えて、素敵な建物がたくさん残っています。都心ではなく、まず地方からやっていこうか...と思い始めました。
BS それで、郡上八幡で仕事をすることにしたんですか?
藤沢 iw45_11.jpg はい。自分の会社の目標を改めて考え、地方で残していきたい風景は...と考えたとき、9年前旅行した時、魅力的に感じた岐阜の郡上八幡のことを思い出しました。その時偶然、郡上八幡で空き家対策の人の募集をしているのを知りました。あんな美しい風景の町でも街並みが壊れてきているのか!と衝撃でした。まさにこれは私がやるべきだ!この美しい日本の景観の残った桃源郷は絶対に残していかなければ!私がやらねば、だれがやる!?と思って行きました。ほとんど押しかけ女房です(笑。

日本の財産、古き良き街並みを残したい

BS でも、旅行で訪れるのと、そこに住み着くのって、大きく違いませんか?
藤沢 初めはここに住んだとき、私みたいなよそ者を受け入れてもらえるのか、すごく不安でした。でも、住んでみたら、郡上八幡に魅力を感じて他所から来ている人も多くて。デザイナーさんもいれば、イベントを企画する人もいれば、絵を描ける人もいて、なにか「やろう!」となったら、そういう人たちの力がグワーッと集まってくるんです。なので、住んでみて違和感はありませんでした。地元の人も、他所からきている人も、みんなに共通しているのは「郡上八幡って、最高やろ!」と思っているところです(笑)。
BS それって、藤沢さんとおなじ想いですね!
藤沢 iw45_12.jpg そうなんです。熱い想いの人が多いですね。土地の魅力、文化の魅力、人の心意気。それを共通の認識として話している郡上八幡の人たちが、私は大好きですね。 「空き家活用プロジェクト」のリーダーである市役所の武藤隆晴さんや、一般財団法人郡上八幡産業振興公社の理事長武藤正幸さん達の「このまんまやと、郡上の美しい街並みがのうなってまうんで、なんとかせんといかん!」という熱い想いに共感し、郡上八幡を愛する町の人たちと一緒にこの1年試行錯誤してきました。
BS 郡上八幡では、具体的にどのような仕事をしているんですか?
藤沢 iw45_13.jpg 今、八幡町内の町家の約1割、350軒くらいが空き家になってしまっているんです。その背景というのが、例えば、相続したけど自分たちは別の都市に住んでいて、資産価値が低いから売却するメリットが見いだせずそのままにしているとか、町家は隣家の生活音が気になるから近郊へ引っ越したりとか、踊りの時期は宿が足りなくなるので、その時だけ親族が集まるので手放したくない、とか。でも、そのまま放置していると老朽化して駐車場にするか、建替えるか...今建替えると不燃材のサイディング材を使うことが多いので、街並みがガラッと変わっちゃう。それをなんとか食い止めるため、町家の使い方を提案しつつ、住みやすくなるよう改修工事を行っています。
BS 先ほど言ってた、街並みの連続性が崩れていってしまうのを、なんとかして食い止めたい!っていうのが、生まれ故郷でもない街に対して、なかなか持てる想いじゃないと思います。
藤沢 郡上八幡に来て、これまでブルースタジオで学んできたリノベーションの手法だったり、移住者を呼び込むことだったり、経験してきたことを少しでも還元できているのでは...と思っています。でも、それだけなく、郡上八幡の町からたくさんのことを今教わっています。水を生活の中で上手に使い、町のみんなで綺麗に掃除して保つこと、郡上踊りでよその地域からくる方々をおもてなしする心、短歌や和歌、三味線や笛や歌、など伝統的な日本の芸能を、町の多くの人たちが趣味として行っていること。やる気とアイディアさえあれば、すぐに人が集まり実現していくネットワークの強さだったり。これだけの古くからの景観が守られてきているのは、偶然ではないんです。町の人たちの意識の高さと文化度の高さからの必然なんです。 この町に来て、日本にはこんなに素晴らしい文化があるんだ、ということを、そして今の時代でも、日々の生活の中でそれらが特別感なく行われているのだ、ということを実感できたことが私にとって、大きな財産です。今度は逆に、こちらで学んだことを東京でも還元していけたら、と思っています。

日本文化の精神性を活かした事務所開きイベント

BS iw45_06.jpg 先日お招きいただいた事務所開きイベント、素晴らしかったです! まず、この事務所の茶室や夜景の美しさに驚きましたし、お料理やお茶、お菓子、手土産などのおもてなしにも感動しました。何人くらいの人をお招きしたんですか?
藤沢 100名以上の方が来てくださって、本当に感謝しております。郡上八幡で学んできたおもてなしの心を少しでも伝えることができたでしょうか。
BS 本当にたくさんおもてなしをして頂いたなと感じたんですけど、あのイベントは、今後の活動に向けた営業や広報的な位置づけだったんですか?
藤沢 iw45_05.jpg このイベントでは、これまでお世話になった方々に、事務所完成のお披露目と、同時に感謝の気持ちを込めたおもてなしと、日本の伝統を伝える作家さんの紹介を目的に行いました。 茶道の世界では、和菓子を作る職人さんやお道具を作る作家さんはとても近しい存在で、おもてなしの趣旨や季節を伝えて、一緒におもてなし空間を作り上げて行きます。 事務所開きイベントでは、そんな作家さんの力をぜひ来ていただいたみなさんにも感じて欲しかったし、若くから日本の伝統に関わる作家さんたちの存在を知ってほしかったのです。
BS iw45_14.jpg本当に感動しました。イベントではどのような職人さんとコラボレーションしていたんですか?
藤沢 iw45_15.jpg 茶室空間の花や飾りつけなどの全体プロデュースは、菓子切りも製作くださった作家の小邦智美さん、和菓子は「山山」の石山仁美さんと内山史さん、茶道具の水指は、唐津焼作家の岸田匡啓さん。お料理は料理人の弟に頼んで、材料には郡上の名産品を集めて、週末東京に来るたびに試作をつくってもらいメニューを決めました。また、会場で流していた郡上の映像は、郡上で一緒に働いている男の子に作ってもらい、少しでも郡上の町のよさが伝わって興味をもってもらえたら、今お世話になっている郡上の人たちにも恩返しができるかなと思って。結果、たくさんの方々がその後郡上八幡に遊びに来てくださって、感謝しております。
BS こういった茶室を事務所につくったわけを聞かせてもらえますか?
藤沢 iw45_16.jpg私はお茶が趣味ですが、茶道はお客様をおもてなしする日本の伝統文化のひとつですよね。私の祖母もお茶の先生をやっていて、趣味が高じて茶室を造り、お茶会を開いてお客様をおもてなししていました。子供の頃はよく茶室で遊んで、祖母がお抹茶を点て、床の間の掛け軸や花の説明をしてくれて、子供心に日本文化の美しさを感じました。なので、日本の伝統文化を伝える...という会社の目標から、お客様をおもてなしするのに、事務所には茶室を作りたいと思ったのです。でも、今の日本の暮らしの中では、お茶はわざわざやろうと思わないとできない、ある意味敷居の高いものだな、と。そんな文化を、特別なシチュエーションでなく、今の時代の日々の暮らしの中で自然にできるとしたら、どんな茶室であればいいのか、と考えて作りました。
BS 観光地の古い建物などを訪れると日本文化を感じることができますが、ちょっと自分とは遠すぎる世界の文化に感じてしまうことがあります。でも、ここに来ると、日本の文化を素敵に普段の暮らしに取り入れるヒントを感じますね。
藤沢 それは嬉しいです!実は当初は本式な茶室を作ることも考えました。左官職人さんに壁を作ってもらい、床柱を選んで、障子を入れて...と。しかし、その道のプロの方々に相談しましたが、やはりいいものはお値段もいいです。そんな茶室を作ることは将来の夢としてとっておき、今の自分に作れる茶室はある意味、敷居の低い茶室。誰でも作れる、いつでも気軽にお茶を楽しめる茶室です。 スケルトンのコンクリートむき出しのマンションの箱を、鄙びた山野と見立て、その中に佇む小さな庵としての茶室を作ろう、と。そこで事務所の真ん中に4.5畳の畳だけのシンプルな台を作りました。そして、掛け軸と障子の役割を組み合わせ、天井から吊る布の几帳で壁・天井を構成しました。
BS 一番の特注品の、この几帳ですね?
藤沢 iw45_17.jpgそうです。小倉染色図案工房の小倉充子さんに几帳の図案を作って頂き、染師の松永恵梨子さんが染めてくださいました。
BS 布一枚一枚、図案が違っていますが、これはすべて日本の伝統的な文様なんですか?
藤沢 これは、すべて小倉さんのオリジナルの図案です。「大津絵」という伝統的な図柄に小倉さんがインスピレーションを得て作ってくださいました。大津絵って、ちょっと冗談めかした絵が多いのですけど、その中に雷さんがでんでん太鼓を落として慌てて釣り上げている絵柄があるんです。小倉充子さんからは、「落として慌ててる感じ、百合ちゃんみたいじゃん」と言ってもらって(笑)。でんでん太鼓のところには、元ブルースタジオの黒田歩さんに作ってもらったスタジオ伝伝のロゴを入れてもらいました。ロゴ自体、まわりにでんでん虫が三匹いる文字遊びが入っているのですが、茶室でお茶を飲みながら、伝伝を覚えてもらえたらなと思ったのです。
BS バルコニーのグリーンなども職人さんの手を借りているものですか?
藤沢 iw45_18.jpg ランドスケープデザイナーの小竹良恵さん(フィールドコムデザイン)にデザインしてもらったのですが、その方が上からグリーンを垂らすアイディアを作ってくれました。日本の建築の特徴で、透かして見る、幾重にも重なったレイヤーを見る、という点があると思いますが、この茶室も中に座ると、小倉さんの型染の伝統的な絵柄を透かして、バルコニーの緑が見え、さらに向こうには新宿都心の無機質なビル群が見える...という過去から未来への不思議なつながりを、そのレイヤーの重なりの中で感じてもらえれば、と思いました。 多くの作家やデザイナーさん、職人さんと一緒に取り組んだことで、このイベントを通じて、自分にとっても、今後の活動のシンボルとして方向付けられたと改めて今思います。これからも、作家さんとともに空間や時間を作っていきたいと思っています。

日本の古き良き建築遺産を日常の風景の中に残していく、それが最終目標。

BS iw45_04.jpg 藤沢さんが設計をするときに、大切にしていることってありますか?
藤沢 iw45_19.jpg そうですね...茶庭を通って茶室に向かう時にいつも感じるのが、角を曲がるたびに、新たな発見や驚きがあってどんどんワクワクしてくること。なので、視線が切り替わる先に、驚きや発見...それは季節の移ろいが感じられるものが目に入るように考えます。 例えばこの事務所では、玄関からぐるっと茶室をまわってくる時に、見える風景が変わっていくようにしたくて。それで、几帳の図柄をオーダーする時に「流れるような絵柄」という希望を伝えて作ってもらいました。最後に、「お茶をどうぞ」と、茶室の中に入った時に、ぱっと上を見上げて「鬼あり!」っていう驚きも作りたかったのです。
BS なるほど!!
藤沢 ただ、設計をやっている自分がいうのはなんですが、作った箱は決して主役ではなく、ベースであって、そこに道具や設えがあってこそ、彩りが出てき、使う人間がいてこそ、完成すると思います。そこで季節の設えを飾りたくなる場を作るよう心がけています。
BS これからやっていきたいのはどんなことですか?
藤沢 iw45_20.jpg郡上八幡での活動だけでなく、全国の古き良き街並みを残していく活動と、それを支える移住者の呼び込みや地域の魅力の発信、古い建物の価値を再発見できる設計や、都心の人や外国人観光客への伝統建築への宿泊体験の提供に力を入れていきます。また、伝統建築やそこでの生活文化を支える作家さん・職人さんを紹介するインタビューページやイベントも計画しています。作家さん・職人さんと暮らしを作ることを、より身近に感じて頂ける機会を作っていきたいと考えております。
BS いろいろな職人さんとつながりがある、藤沢さんならではですね!今日インタビューして、藤沢さんがスタジオ伝伝でやろうとしていることが分かってきました!
藤沢 ブルースタジオ時代、社内では古い木造建築フェチで通っていて、比較的たくさんの木造建築の改修に携わらせてもらいました。特に作家さんと一緒に作り上げた「田中衡機ビル」や「わの家 千峰」は印象的でした。自分の会社の目標を作った大きなきかっけのひとつです。たくさんの出会いのあるブルースタジオで働けた事に感謝しております。
BS 最後に...、藤沢さんは地方の方が大事ですか?
藤沢 地方の方がいいという訳じゃないですが、街並みや建築など、古くていいものを残していきたいと考えたときに、東京ではもう残っているところが少ないです。それが地方だとまだまだ残っている、ということで地方に目を向けています。日本の昔ながらの建築遺産を日常の風景の中に残していく、それが当たり前でしょ、常識でしょ、とみんなが思うようになるのが最終目標。ただ、地元の人たちがその価値に気付いていなくて、新しくてきれいな家の方がいいと思っていたりもしますよね。
BS そういった意味で、藤沢さんのように外から来た人が、「街並みそのものに価値がある。残していくべき!」と、熱心に伝えていくことは、単純に地域の人たちは嬉しいと思うし、地域の人たちがその価値に気付いて建物が残っていく、ということにつながりますよね。
藤沢 先日郡上八幡で改修した町家のオープンルームをやったのですが、それを見に来た別の町家オーナーさんが「こんなによくしてくれるんだったら、うちもやってほしい」と言ってくれました。熱意をもってよさを伝えることで、1つの事例ができ、その事例を通して、少しずつでも広がっていく!街並みが残っていく!ということが最近実感できるようになってきて、「よっしゃ!」と思っています。
BS 郡上八幡での活動1年目の大きな成果ですね!

2016年3月31日 東京・千駄ケ谷『スタジオ伝伝』にて
インタビュアー:和田 亜弓 撮影:平尾 美奈(すべて、blue studio) 写真提供:スタジオ伝伝

藤沢百合

Yuri Fujisawa

1975年 岡山県生まれ。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、
ゴールドクレストにて新築分譲マンション用地の仕入れ、販売を担当。
退職後、2009年に工学院大学2部建築学科卒業。
2010年 ブルースタジオへ入社し、『うめこみち』『田中衡機ビル』『わの家千峰』等、
事業用不動産の商品企画、設計・監理、仲介、プロモーションを担当。
2014年 スタジオ伝伝を設立。
2015年6月より、岐阜・郡上八幡市の「空き家活用プロジェクト」に参画し、現在も活動中。
2016年2月 東京・千駄ヶ谷の事務所開きイベントを主催。
http://den-den.co.jp/
https://www.facebook.com/yuri.fujisawa.75





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