Magazine


一覧へ

INTERVIEW No.28


現代美術ファンド登場!

今福英治郎 / Eijiro Imafuku

日本にもようやく「現代美術ファンド」なるものが出来ようとしています。お話をお伺いしていると非常に知的で、そしてかっこいい。立て役者は「Lattice Aoyama」入居者でした。

ブルースタジオ(以下BS) 今福英治郎(以下EI)

会社を上場、そして次の会社をつくる。

BS 今福さんは既に3社も起業されておられ、そのうち1つは上場も果たしておられます。並み大抵の努力では出来ないはずですが、起業に対する強い欲求がそのベースになっているのでしょうか?
iw28_02.jpg
EI 特に「起業」そのものへの強い欲求があったわけではありませんね。経営学や経済、法律といった分野を学んでいた訳でもありませんから。 結果として、振り返ってみたら、3つの会社を創立していたという感じでしょうか。いままでにない新しい何かを立ち上げようとする時、まずは自分で「かたち」にしてみないと、回りの人々を説得していくことは難しいと思います。日本の場合は特にそう。「前例がないから」というスタンスは、どの業界においてもまず立ちはだかる壁ですね。僕のこれまでの生き方は、どちらかというと文学や哲学がベースになっているのかもしれません。
BS 大学で専攻されていたのでしょうか?
山田 そうですね。経営とは直接関係のない分野と思われるかもしれませんが、実際はそうでもでない。そもそも「会社」とはパブリックな存在として社会の中で何が できるか、どのような新しい価値を生み出し人々へ提供できるかといった事を実践していく組織体だと考えています。つまり、それらを考え体現していくのが経 営者であり、突き詰めていくと、結局はその人の生き方というか、哲学によって会社の全ては支えられています。僕の場合は経営学を体系的に学んだわけでもあ りませんし、ITなど技術的な分野を専門に学んだわけでもありません。ただ、サラリーマンには全く興味はなかった。自分のビジョンがあって、はじめて必然 としての仕事が最初からあったという感じです。最初から給料を支払う立場でしたね。単純に、新 しいことを始めるのが好きなんですね。ですから、今までやってきたことを振り返るとコンペティターがあまりいない分野でビジネスをスタートさせてきたよう な気がしますね。で、コンペティターが出てきて、市場原理による価格競争に入る頃には、また違うことをスタートアップさせてきたのかもしれません。
iw28_03.jpg
BS 設立1社目は印刷業界ですよね。
iw28_04.jpg
EI 平成3年というのは、日本においてまだApple Computerがあまり知られていない頃で、MACによるDTPがビジネスとしては認知されていなかった時期です。技術の裏付けもまだはっきりとない状 態でしたから、大手の印刷会社と一緒にDTPの体系的な方法論とノウハウを少しずつ確立していきました。
BS 誰も手をつけていないそういう時期に、コンピュータ機材を導入して、これは投資をしていたということですね。
EI そうですね。全ての行程がデジタルで完結し、ビジネスとして成立するようになったのは設立から2年後位でしたからね。まさに先行投資でした。その後、DTPの業界は急速に市場競争によって淘汰される時代に入っていきます。僕自身の興味は、すでにインターネットへ移行していました。ちょうど日本の大企業もアメリカに追随するかたちで自社のホームページの立ち上げを検討し始めた時期です。そ の頃はネットが商売になるなんて、ほとんどの日本人が考えもしていませんでした。いまとなっては信じられませんけどね。それって、ほんとにお金になる の?って感じでした。ただ当時のアメリカの状況を見て、私は確実にそういう時代が来るだろうと確信していましたから、もうひとりの経営者に会社を譲って、 ネットビジネスに特化した次の会社を設立しました。
iw28_05.jpg
起業3社目「TGA」は、ラティス青山に入居。
http://www.tga-net.com/
BS それがカラーフィールド。
EI そう。はじめはクライアントそのものが存在していませんでしたから(笑)依然としてDTP関連の仕事を主にしていましたが、しばらくしてすぐに波が来まし た。ITビジネスに特化したコンサルティングファームでありながら制作機能・システム構築機能・ビジネスモデル構築機能等を持つWebのトータルエージェ ントを目指したのと、もうひとつは企業間取引、つまりB2Bのマーケットプレースをweb上で構築するということを柱としていました。この2つのビジネスドメインをもって上場した訳です。スピード上場でしたね、設立から3年程でしたので。日本のネットベンチャー第一世代が上場を果たした年のことでした。
BS エキサイティングだったでしょうね、、、
EI なかなか経験できないことだったとは思いますが、やっている当人達は至って平静でしたね。そして私はその上場を果たした後、2002年に3社目の会社を立ち上げることになります。

勝負する分野は「コンテンポラリーアート」

BS それがティー・ジー・エイですね。コンテンポラリーアートを扱っておられるわけですが、「モノづくりに興味があった」とおっしゃっていたことと関係がありますか。
iw28_06.jpg
宮島達男氏とのプロジェクト。
詳細は、http://www.1000reallife.net
EI モノづくりといっても図面を描いたり、ディテールにこだわったり、デザイナー的なアプローチの「モノづくり」ではなく、社会的な新しい仕組みづくりに関心があるわけです。
BS こんなことがあったのか!!!」っていうような・・・
iw28_07.jpg
EI そうですね。そういう意味でいうと、この会社の目的は少し大きいところにあります。まず日本の国家戦略というか、文化を輸出産業化していく国家施策は他国 に比べ非常に弱いんですね。例えばアジアでは、韓国や中国、シンガポール等が国家による強力なイニシアティブによってコンテンツ産業の海外輸出戦略が押し 進められています。もちろんヨーロッパの国々も、文化を産業化することによってそれぞれの国のソフトパワーを上げていっています。人材を育て、ソフトの質 を上げ、同時に世界マーケットへのアプローチも戦略的に構築し、次世代の為の国際競争力を高めようとしているわけです。日本でも、こうした大きな動きを体 系的にやっていかないと、必ず国力が落ちる。次世代の人々がワールドマーケットで堂々と戦うことができなくなる。3社目となるTGAの起業は、そうした危機感がベースとなっています。日本あるいはアジアが欧米マーケットときっちり対峙できるだけのソフトパワーを持つためにはどうしたらいいのか、その新しい仕組みづくりを行う過程で、その一端を担えればなと思っています。 これまで日本には世界的に通用するコンテンツは、少ないながらも存在はしていました。しかしそれらは突出した個人の才能が点として存在していた結果です。そ うではなく、体系的に戦略として個の才能とマーケットを同時に育てていくことをしないといけないと思うんです。いまTGAでは、コンテンツの広い分野の中 から、幾つかにその焦点を絞っています。いま注力しているのは、コンテンポラリーアートという分野です。
BS TGAでは、宮島達男さんとプロジェクトを進めてらっしゃいますね。
iw28_08.jpg
EI そうですね。昨年から現代美術作家の宮島達男氏と「1000 Real Life Project」というアートプロジェクトを進めています。その中でさまざまなマーケティングをやってきましたが、日本とアジアではコンテンポラリーアートのマーケットが全く成熟していないという事が判ってきました。つ まり、コレクターがいない。もちろん少しばかりのコレクターは存在しますが、それは点でしかなく、マーケットとして認知されるレベルではありません。欧州 と比較すると圧倒的なマーケット規模の差です。原因は税制の問題等いくつかありますが、まずヨーロッパのような社交界がないというの大きい。例えば、ヒヂヤさんが事業で成功し、1,000億円の資産をお持ちになったとします。でもヒヂヤさんは、この社交界に入れないんです。
BS どうしてでしょう?

アートを巡って成熟するマーケット

iw28_09.jpg

EI ヒヂヤさんの御子息がはじめて入れるんです。一度相続されたお金というのは「浄化された」という考え方がヨーロッパにはあります。日本のようなネガティブ な考え方はされません。ただし「そのお金は、社会から一時期あなたが預かったものであるから、社会にこれを還元する為の教養を身に付けなさい」と、そうい う意味合いで社交界があるという側面があります。もちろんそれが全てではありませんが。つまり哲学を学び、美術を学び、経済を学び、投資することの意味も 学ぶ。総合的な教養を社交界を通じて、学んでいくわけです。現代美術は、そうしたエスタブリッシュ層のある種の免罪符的な意味合いを 持っており、彼等の会話の要素のひとつとして、重要な部分を占めています。同時代のコンテンツ分野の最先端のカテゴリーであると同時に、世界中の富裕層が これを買い支え、コレクションすることで、富裕層の中での差別化を図っているわけです。これは今に始まったことではなく、ギリシャから延々と行われてきた 美術家と富裕層との関係性を物語る構図です。 現代美術では、よく「コミッションワーク」と呼ばれるものがあります。ある作家に対して自分だけの一点モノ・・・例えば自宅の壁面の大きさにあった作品等を指名発注することで。お金があれば既製品は買えますが、いくらお金があったとしても自分自身の知性や哲学、選択眼無くしては絶対に手に入らないもの、それが現代美術の「コミッションワーク」です。
BS 世界にひとつしかないその作品に、自分自身の教養が反映されているということですね。
EI そうです。そして実は、そういう作品が市場における流通性を持っているわけです。ある業界がダウンしたら、新興の業界で成功したあらたな富裕層が買い支えるといったような、特殊なB2Bのマーケットが存在している。
iw28_10.jpg
BS それはつまり、マーケットが成熟しているということですね。
EI そうですね。欧米においては。ですが、日本にはそういったマーケットはありません。ただ、つくり手側に関しては、日本人や他のアジアの作家達がそうしたフィールドで十分戦えるようになってきたんです。ここ3~4年の間で。ま た、世界の資金がこのフィールドに大きく流れてきているのも確かです。モダンアートからコンテンポラリーアートの方へですね、、、つまりこういうことで す。純粋に投資家として考えると、50億のピカソを1点買うんだったらコンテンポラリーアートの優れた作品を5000万で100点買った方がいい。
BS ・・・な、るほど・・・非常によ~く分かりました。
EI 更に、いままでこの分野はアメリカ中心だったんですが、今はヨーロッパがその主導権を握ろうとしています。仏資本がオークションハウス自体を買収したり、 作家のデータベース、つまり証券銘柄の一覧みたいなものですね・・・これを体系立て開示していくことで、きちんとしたマーケットに育てて行こうというはっ きりした方向性を打ち出しています。今後ヨーロッパではこれまで以上にマーケットが投資分野として現代美術市場が成熟していく可能性があります。
iw28_11.jpg
BS 作品購入者はコレクターですか?
EI そうです。コレクターは2種類います。ひとつはその作品を持ち続けようとしている人たちです。もうひとつは、投資目的として、金融商品としてこれを買う人たち。
BS 後者の方が数が多いでしょうか。
EI むしろ逆です。できれば作家は前者のタイプのコレクターに買って欲しいわけです。
BS プライスが違うからでしょうね、、、不動産も同じですね。
EI そう。それと、作品にとっては「どこではじめに発表されたか」が重要です。
BS 履歴書みたいなものでしょうか。・・・あるいは登記簿。
EI そうでしょうね。例えば、ポンピドゥーで展示された後にカルティエ財団に購入されたという作品と、NYのディーラーが投資目的で購入して2年間寝かせた後 にポンとオークションへ出しましたという作品とは、やっぱり血統的には違います。もちろん作品の善し悪しとは別のこともあるでしょうけれどね。

アジアで初めてのコンテンポラリーアート特化ファンド!

EI 日本や韓国の超一流作家のバリューは非常に高く、もちろん彼らは欧州のマーケットで確実に評価されています。だけれど、アジア国内のマーケットそのものが 脆弱ですから、ギャラリーとのプロジェクトも途中で止まっているものがあったりします・・・信じられませんが!・・・我々はそういう状況を精査し、投資案件として確実性の高いプロジェクトに関してファイナンスをかけていくことを行おうとしているわけです。
iw28_12.jpg
BS 日本の投資家もそういうものをどこで買ったらいいのか分からない。認知度が低いように思いますね。
EI そういうマーケットがあること自体も知らない方がほとんどだと思います。で、我々は今、実際にプロジェクトファイナンスで幾つかファンドを走らせていて、ある作家の新作プロジェクトに対して、その制作資金を投資家グループから集めた資金を投下しています。そ して作品をアメリカやヨーロッパで販売権を委託した幾つかのギャラリーを通じて売却し、その時のプロフィットをあらかじめ確定させておいてエグジットす る。このスキームが第1フェーズ。次のフェーズへ行くためにも、いまはトラックレコード、つまり結果を出す必要があるわけです。
BS そうでしょうね。不動産のファンドスキームと非常に似ているところも多いようです。それがコンテンポラリーアートにアプライされていると聞くととっても不思議で新鮮です。
EI これはマーケットが成熟している欧米では、決して珍しいスキームではありません。大手の銀行や投資グループが実際にやっていることですから。日 本ではトップクラスの作家でも資金調達をしようとした時に、確立された方法がありません。次世代の作家についてはなおさらです。こうした時に直接金融のノ ウハウを持たない日本の銀行は力になってくれない。せいぜい、その作家が何年か後に大学教授にでも就任した時に、その教授職、国家公務員という担保に見 合った融資をする程度でしょう。欧米ではこんなばかばかしいことはありません。例えば、オークションレコードのベスト200あるいはベスト300に入って いる美術作家が「新しいプロジェクトを起こしたい!」と言ったら、ファイナンスを引受けるところは確実にいます。投資家はその価値を分かっていますから ね。ニューヨークでは元プライベートバンカーが現代美術の世界へ転身するケースはよくあります。だけど、日本ではそうはいかない。ファイナンスサイドにそ の価値を分かっている人材がほぼいないからです。
BS その気持ちはよく分かりますよ。リノベーションも融資対象になることはほとんどありませんから。この状況は変えられるでしょうか。
EI 変えないといけないんです。直接金融が進んでいる欧米に対抗する方法論を見つけなくてはいけません。極端で乱暴な言い方になるかもしれませんが、日本は欧 米から「消費国家」としてしか見られていません。私たち日本人は、欧米発のあらゆるブランド品、ファッションからインテリア、コンピュータ、車、音楽、映 画その他暮らしに関わるをあらゆるモノ買っています。その代価はそのまま欧米に吸い上げられて、彼らは、自国の文化を底上げする為にその一部を再投資して います。国も税金を控除してそうした文化に関わる投資活動を優遇する。このサイクルが続く限り、いつまで経っても日本の国力は欧米へ追いつかないし、文化 的競争力は高まりません。この根本的な構図を変えないといけないんです!いつまで経っても取られっぱなしですよ。このままでは。

2004年5月26日 Lattice Aoyamaにて
インタビュアー:泥谷英明(blue studio)
撮影:武井良介

今福英治郎

Eijiro Imafuku

<今福英治郎>
平成3年 株式会社ネオックス設立、同社取締役就任
平成9年 株式会社カラーフィールド設立、同社代表取締役社長就任
平成12年 同社社名を株式会社アイ・シー・エフに変更、同社東証マザーズへ上場(証券コード4797)
平成14年 株式会社ティー・ジー・エイ設立、同社代表取締役社長就任





Rent / Sale

Magazine

Portfolio