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INSIDE Vol.21


住み繋がれる
海神プレハブアパート

Vol.21

千葉県船橋市『SOU』 リノベーション 住居 カップル
専有面積: 42.00㎡
職種: 出版物編集/建築設計事務所勤務
趣味: 建築見学

海神の再生プレハブアパート

千葉県船橋市に“海の神”という地名の街がある。江戸時代までは漁が盛んな宿場街だった。海上での安全と豊漁を祈る人々が暮らしていたこの街ならではの地名、「海神」。大きく息を吸い込むと、海風が微かに香るのに気付くだろう。

『SOU』は1970年代後半、海神で3世代にわたり船大工を生業としていた家族によって建てられたアパート。積水ハウスの「BFA型」というプレハブ型軽量鉄骨アパートで、その後、日本全国で量産されていくプレハブ型アパートの中でも初期の型だ。

このアパートが建てられた当時は、いかに効率的に多くの人へ住環境を供給するかが求められたが、現在、賃貸住宅の量は飽和状態。その場所、その建物ならではの魅力的な「物語」が求められるようになった。

そんな時代に適合させるため、『SOU』は一棟まるごとリノベーションを実施。海神という街と3世代の船大工というオーナーの記憶を汲みとった共同住宅に生まれ変わった。

「量産住宅の再生、という社会性に惹かれてしまって」

『SOU』に入居している伏見さんは新婚のご夫婦。夫は建築関係の出版物の編集、妻は建築設計事務所勤務と、夫婦ともに建築に造詣がある。

「木賃再生プロジェクトをきっかけに、編集者としてブルースタジオさんの活動に注目していたんです。福田首相が200年住宅ビジョンを提言した2007年頃から、ストックをいかに活用していくかということはメディアで大きな話題となっていて、雑誌で再生事例を取り上げることも多くなりました。そんな中、結婚を機にいざ自分たちの住まいを探すことになったのですが、仕事のようにこの住宅の社会性にまず惹かれてしまって」と笑うご主人。

住まいを探していた時期に、ご主人がちょうど取材をしていたのが団地やプレハブアパートなど量産住宅だったことから、『SOU』のプレハブアパートを再生するという取り組みそのものに関心を持ったことが入居のきっかけになったそうだ。

「私の職場に近いことを条件に夫が選んできた物件を見学して、私が直感で気に入ったのが『SOU』でした。3面に窓があって明るく、風が気持ち良く抜けるところが気に入って」と奥様。

物件探しは左脳派のご主人が担当し、最終的な判断は右脳派の奥様に委ねる。そんな的確な役割分担で『SOU』への入居を決めた。

ふたりでつくり上げていく住まい

部屋に入ると、3方面ある窓から光が差し込むワンルーム空間が広がる。手前にキッチンとダイニング、右手奥にリビング、左手奥には引き戸で仕切ることも可能なベッドスペースが続く。寝室からウォークインクローゼット、キッチンへと抜ける導線があり暮らしやすそうな間取りだ。

「物件探しの時、寝食を分けられることと水周りの清潔感を大切にしていました。この部屋はどのスペースにも窓があるので、光と風が抜けて気持ちいい。朝起きたときに両手でカーテンをバっと開いて光を浴びるのが楽しみで」(奥様)

「新調した家具のほとんどが無印やIKEAでリーズナブルに買い揃えたものです。実際に住んでから寸法を測ってサイズに合ったものを探してきましたね。職業柄、そこはきっちりと(笑)。このアパートは家賃もそんなに高くないし、設計者のデザイン色が強すぎることもない。これからふたりで住まいをつくり上げていく僕たちにとってはちょうどいい部屋でした」(ご主人)

簡素なつくりのプレハブ型アパートには、70年代の合理主義的な価値観がにじみ出ている。だが、余分なものをそぎ落としたシンプルな住環境は、自ら創意工夫をして暮らしをつくっていくことを求める人にとっては魅力に映る。また、全国各地に建てられた同じ型のアパートだとしても、その場所、その大家固有の魅力に価値を見いだし、デザインやブランディングの力を加えることによって、唯一無二の魅力ある住環境として提供することができる。

結婚するまで実家で暮らしていたという伏見さんご夫婦は、自分達らしい暮らしを『SOU』で初めてつくっていく。築40年のプレハブ型アパート『SOU』は、入居者が自分たちらしさを加える「余白」のある住まいとして、これから20年先まで住み繋がれていく。

2011年7月9日『SOU』にて
撮影:笹本直裕 取材・文:和田亜弓(共にbluestudio)

今回の入居物件のご紹介

千葉県船橋市海神『SOU』
専有面積:42.00㎡
竣工年:1970年代後半
リノベーション完了:2011年1月





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