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INSIDE Vol.11


帰りたい家
大森長屋生活

Vol.11

東京都大田区『大森ロッヂ』 リノベーション 住居 シングル
専有面積: 23.74㎡
職種: 不動産会社勤務
趣味: お酒・着物

これまでに体験したことのない新鮮な住環境

目立った店舗はないが、道行く人々から生活者のエネルギーを感じる。しっぽを立てた猫が堂々と道を横切る。そんな下町らしさが残る東京都大田区の「大森町」駅周辺。駅から歩いて1分の路地先に、大和塀に囲まれた黒い下見板張りの建物郡が突と現れる。7棟の木造長屋と母屋が建つまちの一角をまるごと再生中の『大森ロッヂ』だ。

「もともと京都の街並みとか町屋とか日本の昔ながらの文化が好きで、いつかそんな雰囲気の家に住んでみたいと思っていたんです」

そう話すのは、『大森ロッヂ』の平屋タイプの住戸に暮らすOさん。特に引越しを考えていた時期ではなかったが、インターネットで『大森ロッヂ』のブログを見つけ「ああ、求めていたの家はこれだ!」と思い、内見に行った。

「まだ工事中だったので、既に完成していた戸建てタイプを見せてもらったんです。そこで、建具や丸太の梁が昔のまま残っていることに感動してしまって……」

「ガラガラガラ」。玄関の白い引き戸を開けると、おばあちゃんの家で聞いたような音が鳴り、なつかしい安心感につつまれる。1歩踏み入れると、そこは腰掛け付きの小さな玄関土間。その慎ましい様子が、現代の若者の目には「可愛らしい」と映る。築後40年を経た丸太の梁や木製サッシ。傷が残り、つぎはぎの施されたそれらの材は「味わいがある」として彼らに受け入れられる。

決して、ノスタルジーではない。木造再生アパートは、現代の若者にとってはむしろ、これまでに体験したことのない新鮮な住環境。若い感性を通して、さまざまな再発見、再解釈が生まれる場所である。

ここに住まなければ、なかった出会い

「こういう家だからといって、本当のおばあちゃんの家みたいにはしたくなかったんです」。そう話すOさんの部屋は、古いものと新しいものとを組み合わせた素敵な部屋だ。

この家に合わせて新調したアンティークの棚やサイドテーブル、櫃などの古い木製家具。一方で、陽が差し込む木製のサッシには、青い波の模様が刺繍された布地が掛けられ、北欧デザインらしいソファーやひざ掛けが置かれている。木製の食器棚には美しい白い食器が整然と並んでいる。

部屋は10畳のワンルーム。決して広くはないが、天井高が高く、庭や路地とのつながりが空間を広く感じさせる。ベッドの奥の白い壁は、絵を飾ったり、プロジェクターで映像を映したりできるほど広く、これからの楽しみも残されている。

「友達が気軽に遊びにきてくれるような家にしたかったんです。実際、こういう家に住んでいると話すと、行って見たい!と興味をもってくれる友達が多くて、リピーターになってくれたり(笑)。大森ロッヂの住人同士でも、誰かの家に集まってお酒を飲んだりしているんですよ」

夕暮れどき辺りが暗くなってくると、ポツン、ポツンと、大森ロッヂの各住戸に明かりが灯り出す。カーテンの隙間から隣の家の明かりを見つけ、メールで夜ご飯に誘ったこともあるそう。“ここに住まないとなかった出会い”。Oさんはそんな住人同士のつながりを大切に思っている。

丁寧な暮らしがしてみたくなる家

『大森ロッヂ』は2010年3月、新たなリノベーション工事が完了。現在は、12世帯・16名の入居者が暮らすまちの一角となっている。この場所を語るには、オーナー夫妻の存在が欠かせない。

「オーナーさんは、優しさがにじみ出ている穏やかな人。本来の人の暮らしのあるべき姿を考えていて、大森ロッヂに暮らす人のことも本当によく考えてくれます」

木や草があり、風が感じられる生活空間と、庭や路地を介して人と人がゆるやかに繋がる環境を蘇らせたい。オーナー夫妻がそんな想いを持ち、今ある建物やこの場の空気感を残して再生することを選択した。『大森ロッヂ』として再生してからも、路地の草花に水をあげたり、パーティを主催して住人たちを招いたりとこの場所に愛情と手間かけ続けている。

「人って、食べるよりも、飲むほうが落ちつくことがあると思うんです。本当に疲れたときに、あったかい日本茶とかコーヒーが飲みたいって思ったり。そういう人が息をはける瞬間みたいなものを提供できる職業に興味があります」と話すOさん。“家”は、人の生活の基盤となる大切な場所。帰ってきたいと思える場所であり、疲れを癒し、次の場所へ向かっていくエネルギーを生み出す場所であってほしい。

毎日の生活の小さなことが、なんだか1番大切なことに思えてくる。桜の開花に誰よりも早く気がつくような、丁寧な暮らしがしてみたくなる。『大森ロッヂ』を訪れると、いつでもそんな気持ちにさせられてしまう。

2010年3月3日『大森ロッヂ』にて
撮影:岩田啓治 取材・文:和田亜弓(共にbluestudio)

今回の入居物件のご紹介

東京都大田区『大森ロッヂ』
専有面積:23.74平米
竣工年:昭和30年代築
リノベーション完了:2009年





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