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INSIDE Vol.09


場所、建物と共にある
一人一人の物語

Vol.09

東京都港区『ラティス青山』 リノベーション オフィス
専有面積: 41.71㎡
職種: インテリアデザイナー
趣味: ***

異なるテイストをミックスしたインテリア

『ラティス青山』は、築38年のオフィスビルを一棟まるごとリノベーションし、44戸のSOHOと店舗にコンバージョン(用途変更)した建物。ブルースタジオが企画、設計を担当し、2004年に完成した。コンセプトは「クリエイターズヴィレッジ」。上層のSOHO部分のデザインのみならず、1階と地下スペースを含む建物全体のテナントミックスにより、入居クリエイターにとどまらず、地域の人々の利便性やコミュニケーションも誘発する複合ビルとしての役割を担っている。

『ラティス青山』の203号室に入居しているのは、ホテルやスパなど商業施設のインテリアデザインを手がける株式会社エールテック(Sept Jasmin)の佐々木弘美さん。2008年の10月からこの場所にオフィスを構えている。現在入居する203号室は、実はラティス青山で2部屋目。1ヵ月前、建物内で引っ越しをし、初めの部屋より広い部屋に移動した。

「8年前に父から引き継いで始めた仕事で、長い間、組織事務所に所属していました。それが、『私に』とお仕事をいただくようになり、乃木坂に小さなワンルームを借りて独立したんです。ですが、たった1年の間で人も物も増えてしまって。別の場所に移らなければと考えていた時に、ちょうど『ラティス青山』に空きがあることを知りました」

デザイナーという職業柄、スケッチを描いたり素材を並べて検討したりと物を広げて作業することが多い。そのため、ラティス青山でも平面でスペースを多く確保できるワンフロアタイプの部屋を選んだ。

「このアンティークのドアは、乃木坂にいたときから持っていたものです。この棚も、ラティス青山に入居するときに同じお店で買ったアンティーク。こういう古い物と女性らしいエレガントな物が好きで、このオフィスもそんな雰囲気にしたいと思いました」

そう話す佐々木さんのオフィスには、アンティークの家具やキャンドル、鏡など、繊細でうつくしい物がセレクトされている。一方で、元の空間の“ざっくり”した感じも気に入っているそうだ。躯体や配管がむき出しの天井や黒い塩化ビニールを敷き詰めた床。佐々木さんが好きな女性らしいテイストと空間のもつ男性らしさが程よくミックスされている。

ミニマムなオフィスでフットワーク軽く

「イメージ写真が欲しいときには、1階の本屋さんに行ってささっと探しています。インテリア雑誌できっちり探すよりも、良いイメージが見つかることが意外と多かったりするんです」と話す佐々木さん。一緒に仕事をするパートナーやクライアントと、ラティス青山で打ち合わせをすることも多いという。初めてオフィスに来てもらう時は、1階に入っている『246 CAFE』の看板がよい目印になっているそうだ。

ラティス青山の上層には44戸のSOHOが入っていて、各部屋は最低限の住む機能をもたせたミニマムなオフィス空間となっている。一方で、1階には「246 CAFE」と旅をテーマに洋書も揃えるブックストア、地階にはフォトスタジオなど、クリエイターの仕事に必要なミーティングスペースや資料庫、撮影場所などの機能をもつテナントが入っている。クリエイターたちは、専有部の外側にあるこれらのテナントを利用することによって、ミニマムなオフィスで軽いフットワークで働くことができる。

「この部屋は私の生活の一部みたいなもので、どこへ行くにも必ずここに立ち寄ってから行くんです」。そんな自分にとって大事な場所だからこそ、好きな家具や雑貨を置いたり、お茶を入れて飲む時間をつくったりして、ほっと一息つける場所にしているそうだ。

一方で、「オフィスを居心地の良い空間に改装したら、スタッフが寛ぎすぎてしまって仕事の効率が落ちてしまった」という話も聞く。佐々木さんもオフィスにはソファやテレビを置かないようにしたり、忙しくても夜には必ず家に帰るようにしたりとケジメをつけて働いているという。

「ずっとここに、建物が残っていてほしい」

依頼を受けた一つ一つの仕事に丁寧に取り組んでいくのが、佐々木さんの仕事のモットー。現在は仕事の数が増え、4人のスタッフを抱えるようにもなったが、「まだまだ駆け出しで、余裕がないのが本音」と話す。

「まわりの方々には、良い仕事をして返していかなければと思っていますね。独立をするか迷っていたときに、友人がこう言ってくれたんです。『人生、何度も風は吹かないよ』って。それで、吹いてきた風に乗ってみてもいいのかもしれないって思ったんです」

ラティス青山の向かいの「青山アパートメント」の裏には、昔ながらの商店がまだ残っている。佐々木さんのオフィスにあるゴムの木が弱ってしまった時、植木屋さんがわざわざ見に来てくれて回復させてくれたことがあったそうだ。そんな一つ一つの小さなことにも、佐々木さんは感謝を忘れない。

「1つ心配なことがあるんです。このラティス青山がなくなってしまったらどうしようって。当然、私もいつまでここで仕事をしているかは分かりませんが、ずっと、ここに、この建物が風景として残っていてほしいと思うんです」

そう佐々木さんは話していた。高度成長期に建築されてからおよそ40年間、南青山の街の風景として存在している建物。『ラティス青山』は人々の記憶に蓄積された風景を壊さずに再生され、新たな役割を担って今もクリエイターたちや地域の人々に活発に利用されている。商業が活発になり賑わいを増したこの街で、ラティス(格子)の外観はこれまで以上に多様な人たちの記憶に刻まれ続けている。

リノベーションによって、建物に吹き込まれた新しい物語。ラティス青山のミニマムなSOHOの中では、この場所、この建物と共にある一人一人の物語が刻まれ続けている。

2009年8月20日『ラティス青山 203号室』にて
撮影:岩田啓治 取材・文:和田亜弓(共にblue studio)

今回の入居物件のご紹介

東京都港区南青山『ラティス青山』
専有面積:30平米
竣工年:1965年
リノベーション完了:2004年





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